観相師(관상、2013)をオンラインで。
3日続けてイ・ジョンジェを見て、さすがに顔を覚えてしまった。韓流俳優の顔は覚えずに楽しみたいのに。しかしまあ、ヒーローでも悪役でもフレキシブルないい俳優だね。癸酉靖難からの世祖の暴虐を描いた作品は『王と道化師たち』でも見たはずなんだけど、基本的な歴史タイムラインが頭に入ってないんでどうもつながらない。しかしまあ、『王と道化師たち』もそうだったけど、大河ドラマみたいに歴史の表舞台を何度も手を変え品を変え描くのではなく、無名の人々のフィクションを歴史的事件に絡めながら描くと言うのは巧み。王宮の威圧感やほの暗さとか、暗さの中にも存在する厳かさとか、サンジャイ・リーラー・バンサーリーは見習ってほしい。
イルマーレ(시월애、2000)をオンラインで。
韓国資本で作られたイタリア舞台の映画と勝手に思い込んでた。しかし、ミニマリズムSFだと分かり吃驚。おしゃれ過ぎる東アジア映画には悪酔いする質だが、本作の舞台となった海辺の家は、住居としては実際にありえないことは分かっていながらも、幻想的な雰囲気の演出が見事。仁川の江華島の沖合の小島で、席毛島というところだそうだ。ソウルで暮らすヒロインが足しげく訪れるという設定は無茶なものではなかったことになる。タイムワープSFというとギャーンと大規模なものを想像するけど、たった一個のポストが時空のゆがみを作り出すという発想がすごい。手紙だけが行き来できる。あれ、犬は…とあとから気づくところも含めてイイ。もうひとつの海辺の家は済州ということで、これも見事。ダッさいリゾートでも人や人工物が写り込まなければお洒落になりうるとい見本か。たった2年のずれで、手紙のやり取りはあっても平行線をたどり続ける男女の関係は、男の方は女の指示によって女の過去を目撃できるが、逆はできない。女はいつでも先回りできるが、眺められるのは男だけという不思議さとその関係が最後に逆転する妙。
『トガニ 幼き瞳の告発』(도가니、2011)をオンラインで。
実話に基づくという告発社会派映画。トガニとは坩堝の意だというが、画面は全く寒々しく、霧に由来する名前の架空の地方都市はまさに暗黒物語の舞台に相応しい。冒頭の鹿をはねるシーンは例のゾンビ映画も思い起こさせて禍々しい(俳優も同じだし)。悪役は女性も含め皆コテコテで分かりやすい。特にキモいおっさんの双子の不気味さをこれでもかと活用した。「教会」の描写が一番救いのないものに思える。障害児への性的暴行のシーンは生々しく、普段見ている某国映画との違いがすごい。子役にトラウマを与えないような形での撮影に苦労したことをあとから読んだ。裁判で被告側の嘘が次々と明るみに出てくるところは、陰鬱な中で唯一気が晴れるシーンだった。最後に裏切ったのは検察だったが、前官礼遇という慣習がまかり通るというのにも闇の深さがうかがえる。
ミス・ワイフ(미쓰 와이프、2015)をオンラインで。
韓国文化院の提供によるコメディー特集で。しかしこれはコメディーと言うよりは人情譚だ。金が全て、人を信じることをしない天涯孤独の辣腕弁護士が、地獄の閻魔帳の書き間違い(というか入力ミス)で死んでしまうが、やはりミスで1カ月早く死んでしまった別人に転生させられ、その別人の1カ月を生きることで帳尻を合わせれば元の体に戻れるというよく分からない理屈。こういうの過去のインド映画でも見た。ただし最後まで見ると、その屁理屈も全部虚構だったのではないかと考える余地も残されていることが分かる。それにしても韓国映画で浮世離れしたリッチライフと転生ものを見せられるのは何度目だろうか。あと閻魔帳のミスを巡っては「たかだか5000万も管理できないのか」と言う台詞があって、この地獄の中継所が大韓民国だけを扱ってることが分かる。しかしレビューを漁ってみても、夫役の俳優の名を出して紹介しているものばかりだ。そういうもんなのか。
Chandigarh Kare Aashiqui (Hindi/2021)をイオンシネマ市川妙典で。
予告編を見ただけの印象は本当にどうでもよくて、ムキムキ男とレオタード姉ちゃんがラブラブというのを見せられてゲップしそうだったけど、実見したら、それなりのメッセージを含んだクイア映画だった。今季を逃しつつある重量挙げ選手兼事務経営者が、ズンバのインストラクターとして現れた女性にぞっこんになり付き合い始める。器量よし、性格よし、セックスの相性も抜群だが、あるところで彼女は自分が性転換者だと告白し、男の方は汚らわしさでのたうち回るという話。重量挙げをやるようなマチズモの塊の男、それに超保守的な男の家族(特に女性)がその嫌悪感をどう克服していくかというのがストーリーの肝。メッセージを伝えるためには綺麗な話にした方がいいという戦略は分かるが、トランスを本物の美人女優がやったことでクイアさがゼロという点、穢れ者扱いされたトランス女性が反省した男を葛藤もなくすんなり受け入れる点が弱いとは思った。少しでも踊りが入ったのは良かった。パンジャーブ、中でもチャンディーガルを舞台にしたことには意味があったのか。
Milana (Kannada/2007)をオンラインで。
DVDは不良品で再生できず。Raja Raniの元ネタと聞いて。しかしRRは確かに着想は貰ったろうが全くの別作品だった。感情的に振れ幅が大きいのはヒロインで、実質的にパールヴァティの主演と言っていい。ヒーローは最後のシーンを除き不動の人格者でつまらない。プニート演じる主人公は二言目には何かイイことを言い、久しぶりのカンナダ映画の旅情満喫。主人公がイイこと言うだけでなく、人生の先達たちがかわるがわる登場しては、夫婦生活円満の秘訣をそれぞれに語る。主人公の父母、ラジオ番組に登場の50年連れ添った夫婦、隣家のコメディアン夫婦、離婚裁判所の裁判官、ヒロインの父までもが。ここでは『沈黙のラーガ』やRRにあったような「結婚してから上手く関係を築いていくことの必要」や、「初恋の終わりが人生の終わりではない」という明確なメッセージはあまり重要ではなく、オカンの涙が全てを取り込んでしまっているような印象。説教の他にも年長者を敬うシーンが何度も繰り返されて、一般人ならドン引きだろうが、カンナダ人はこういうところにいちいち頷いたりしちゃうんだろうな。
Akhanda (Telugu/2021)を川口スキップシティで。
予想通りのボーヤパーティ節。オープニングからラストまでずっとハイテンションの高原状態。まさに映画の秘境、映画の秘宝、バラクリ秘宝館。モーディー支持者の中にハリウッド化するボリウッド嫌悪の人が増えているという昨今、テルグ人じゃないのに見て、聖牛の守護者としてのバラクリを褒めたりしているのを見かけた。貧相で老け顔でIASには全く見えないプラギヤーだが、テランガーナ人という設定は新鮮。ラーヤラシーマとテランガーナの違いで笑わせるシーンも。バラクリ1が授かった子供が女児であるというのにもメッセージがあるか。圧巻の見せ場はバラクリ2の方であるのは間違いない。前半はバラクリ2を華々しく紹介するためのプロローグとも言える。とはいえ前半のイントロも、総立ちの民が花吹雪を降らせるという臆面なさ。前後半通して、最近聞かれなくなった「いい気なもんだ」を思い出した。また、前後半ともダンスの振付、スタントの振付が神業。繰り返される法輪のイメージは美しく演出される。最後はオカルト風味も混じり、心身却すれば火もまた涼しロジックでとことん盛り上げる。
Jai Bhim (Tamil/2021)をオンラインで。
2:39の長編だし、出だしではやたらとメモを取らなきゃいけない固有名詞続出で全然進まないしで、これは3分割鑑賞かなと思ってたら、中盤からガンガンに飛ばし始めて面白くてやめられなくなって一気見。実話がもとになっているだけあって、そんなに驚くようなウルトラCはなく、ファイルの山の中から調書を見つけて時刻の矛盾を突くとか、死体遺棄現場のタイヤ跡を特定するとか、地味な手法で証拠崩しをしていく。スーリヤのダンスやアクションは封印、華麗な法衣捌きがアトラクション。冒頭のシーンで、いきなりカースト名の読み上げ(8つも)があって度肝抜かれた。しかし抑圧側のヴァンニヤルは一度も言及されず。しかしカレンダーの図柄だけで大炎上するとは(もちろん意図的に取り込んだものなのだろうけど)。トライブの中には、定住して生活しているにもかかわらず、基本的な身分証明もなく、従ってクオータを申請するためのカースト証明書もないという状況があることが分かった。それから、これ見よがしでなくさり気なく女子のエンパワーメントも訴えられている。表題のスローガンは劇中には現れず。
Maanaadu (Tamil/2021)をイオンシネマ市川妙典で。
ほぼノーマークの一作が自主上映と知り驚いたが、ヴェンカト・プラブ作品だと知り納得。しかし一旦上映が始まるとシンブ、それについでSJSへの拍手喝采もかなりのものだった。タイムループSFと聞き、予告編を見ただけで大体想像はついたけど、そのタイムループがだんだん狂熱的なテンポになっていくのに興奮。ハリウッド映画と違い、そこにいるのはシンブとSJSなので、形而上的で哲学的な方向には向かわず、あくまでも笑いと汗と血のほとばしるバイオレンスなのが素晴らしい。それにしてもシンブは相変わらずアクが強いというかアクだけでできてるような顔で、役に溶け込むと言うのは無理な役者だ。対するSJSがダヌシュコディという役名だったのはダヌシュへの当てつけか。タイムループの中に「胡蝶の夢」コンセプトを持ち込んだのはすごいけど、SJSの方が強制的に「その日の朝」に引き戻される契機が何なのかは不明。主人公はその死によって引き戻されるが何回ループしたのか。さすがにあれだけ繰り返されると飽きないだろうかと心配した。Venkat Prabh Politics。
僕の中のあいつ(내안의 그놈、2019)をオンラインで。
前知識ゼロでコメディーとだけの認識で臨んだのだけど、これボディー・スワップものだったわ。しかもありがちな男女間の入れ替わりじゃなく、いじめられっ子のロマ男子高校生と裏社会の有力ドンというの。それで、そのノロマ高校生(中身はヤクザ)が休み期間に武術教室でフィットネスに励んだら誰もが振り返るアイドルもどきに変身するという少女漫画展開も。日本だったら間違いなくアニメになる素材を実写でやる韓国映画はすごい。高校生の正体を知ってなお仕え続ける舎弟の演技がおかしくて笑った。高校生がジャッキーンとなってからのアクションシーンは正攻法ながらなかなかにリアリティーがあって振付が上手いなと思った。学校内のかなりエグいいじめのシーンにはガクブル。女子高生がやはり武術を習って強くなったシーンをもっと見たかった。
グッバイ・シングル(굿바이 싱글、2016)をオンラインで。
韓国文化院の韓国映画企画上映コメディ①として。疲れ切った頭にはコメディーがいい。落ち目女優が老後を考え子供を持つことを考えるが、既に閉経していて実子は望めず、養子も法的に難しいので、10代の妊娠をしてしまった中学生を一時的に引き取り、赤ん坊を自分のものにする約束で共同生活を送るというもの。マブリーがスタイリスト役というのは、要するに熊に可愛い芸をさせて意外性で笑いをとる好きじゃないパターンかと思ったけど、だんだんそうでもないことが分かってくる。最後はじんわりさせるという路線だが、それよりも、血のつながらない変則的な家族像というのがいいと思った。Kumbalangi Nightsのような深みはないけど。それから韓国映画、貧乏を描かせると上手いけど、その反動のような、現実感のない大金持ちワールドも結構よく出てくる印象。
Doctor (Tamil/2021)をイオンシネマ市川妙典で。
SKがシリアスに転じて(つまりストーキングをやめて)しかも成功したという一作。社会派なのかと思っていたが、レビューの多くはダーク・コメディーとしていた。SKとヨーギ・バーブ以外知ってる顔がほとんどいない(ヒロインですら誰か分からず)という意味で実験映画みたい。女児誘拐&人身売買の組織と対決する軍医という構図だが、軍医にする必然性は低い。終始むっつりしたSKは「シリアスごっこ」感がぬぐえない。幾つかループホールではないかと思ったのが、①警察にまともに仕事をさせるために高官の子女を誘拐するプロットがあったがあれはどうなったのか②後半で主役の一家の中のやや薹の立った女性を狂言誘拐するところがあったはずだがあれは何だったのか。イカれた警察官バガトをやったRedin Kingsleyはイライラさせられるが強烈、それに半端ラウディーをやったSunil ReddyとShiva Arvind(特に後者)が印象に残った。この監督、ヴィジャイの次作の担当だと言うが、若干不安にさせる。ミリンド・ソーマンがあんな風に出て来るとは落ちぶれたもんだ。
子どもたちは楽しい(아이들은 즐겁다、2021)をオンラインで。
TIIF提携企画のコリアン・シネマ・ウィーク2021の配信で。ソウル近郊に住む9歳(後から調べて知ったのだが)の男の子の物語。トラック運転手の父とは血がつながっておらず、生みの母は入院している。新しい学校に転校してきて、すぐに仲間ができるが、一方で勝手に対抗心を募らせるメガネ君も。キャラがハッキリした同級生たちが立ち現れる。母の病は重くなり、仁川にある病院に転院し、学校帰りの見舞いはできなくなる。そこで彼はある休日に仲間たちと一緒にバスを乗り継いで仁川に向かうが、バスの行き先を間違えて田舎道を彷徨うことになる。程なく警察に保護された彼は望む通りに病院に行きつき、母の最期を看取る。特に成長物語とも言えない、スケッチの集成。全体としては悲劇の物語なのだが、それでも子供は合間を楽しむ。特に4人の子供が小旅行に乗り出す場面はドキドキした。現代の子供でスマホを使いこなしていても、あんなところでフッと間違えてしまうものなのか。文字がほぼ読めないという意味で9歳児以下の自分だったらどうだったろう、というのがやたらリアルに迫ってきた。
Sooryavanshi (Hindi/2021)をイオンシネマ市川妙典で。
Covid19対策がなされてから初めての妙典、スクリーン2。端のぼっち席でやりたい放題した。会場は9割がた埋まってた。日本人はほとんど見かけず。それにしても、インド人観客のマナーの悪さ、ヒンディー語映画の時の方が目立つと思うのだが偏見か。ローヒト・シェッティだから期待値低めで行ってちょうどよかった。さり気なさのかけらもない、これ見よがしな宗教融和のメッセージと、ガキの戦争ごっこに近い長々しい銃撃戦。それに90年代のリバイバルだという古めかしいラブソング。昨日見たAnnaattheはディーワーリーの爆竹映画だったが、これはディーワーリーの花火映画、どっかんどっかん景気だけはいい。ゲストの2人ではADの方が威張ってる感じだが、キャラがメインのアクシャイと被っていて効果が薄い。RSはコメディアン枠だが、華やかさではキャスト中で一番。「某国がテロを繰り返すたびに観光業界もエンタメ業界も冷え込むではないか、アリー・ザファルもボリ映画に出られなくなってるじゃんか」と、作中で一番おもろい台詞を言っていた。一ことで言えば大味。
最善の人生(최선의 삶、2021)をオンラインで。
TIIF提携企画のコリアン・シネマ・ウィーク2021の配信で。地方都市に住む高校生のやり場のない鬱屈と、仲良しの3人組の間に忍び込む格差と憎悪を描く。無口な主人公ガンイと女王様タイプのソヨン、水商売人生に突き進むアラムのキャラの対比が鮮やか。3人は揃って家出するが、その行き先がソウルなのかどうなのか。ともかく、地方都市では女王様のソヨンが全く埋もれてしまうという皮肉な設定に演じ手がぴったりはまっていた。失意のソヨンとガンイはねぐらの中で衝動的に交わるが、直後からソヨンはそれを激しく後悔して、その反動でガンイを憎むようになり、子供じみた態度でそれを表す。この辺りの機微が痛いほどによく分かる。そして本当は一番ひどい人生を歩んでいるはずのアラムが、訳知りの世話焼きとして脇に回っているのが何とも言えなかった。
Annaatthe (Tamil/2021)を川口スキップシティで。
評判が悪いと聞いていたけど、天晴なディーパーヴァリ大作だった。ヒロインはナヤンターラではなくキールティ。それなりの演技力がなければ務まらない役だった。神の遍在というか、いつも見守ってくれている神としてのラジニというのが、分かりやすく絵になっていた。悪役異母兄弟の確執はいまひとつスッキリしないものだったが。幼年時代の回想シーンを見ると、兄と妹はせいぜい10歳ぐらいしか離れていないのに、兄の昔の結婚相手候補(クシュブーとミーナ)が自分の息子たちを妹の相手にと勧めてくるあたり。二人とも80年代90年代のラジニ映画のヒロインだったことを思うと余計にアイロニーがある。ナヤンターラは『ビギル』での立ち位置とほぼ同じ。スキップシティでの上映は、そう断ってはいないが実質的に爆音上映で、まさにディーパーヴァリの爆竹のようだった。こればかりは、配信で見た場合には印象は相当違うと思う。シヴァ監督はカラフルで騒々しいけど理想的で架空の田舎を描くと素晴らしい。ラジニが自分でダップ太鼓を手にして演奏するシーンあり。コルカタのシーンはトラムがいい。
Alborada (Sri Lanka/2021)を東京国際映画祭で。
パブロ・ネルーダのセイロン滞在時のエピソードを描くという事前情報のみで、爽やかなスチル写真にも惹かれて見に行ってみたが全然違ってた。実質タミル映画といっていいほどにタミル人が多く登場する。クライマックスまでは、植民地時代のセイロンに名誉領事としてたどり着いた、限りなく不良外人に近いチリ人の若者の、懶惰な社交界での生活と半端なオリエンタリストぶり、子供の夏休みが永遠に続くかのような無邪気な戯れを描き、ただしフランス映画のベトナムものほどに映像の鮮烈さはなく、微妙な印象だったが、微妙な印象だったが、クライマックスでヒリヒリとしたものに。エンディングで彼がトイレ掃除の用具を運び続ける描写は、彼がその後死ぬまで非難を受け続けることを暗示するのか。ただし、善と悪の二項対立にすには植民地は余りに複雑すぎるので、主人公に犬のように仕えながらもダリトのタミル人を差別するタミル人バトラーを配し、最後に彼に反撃させるが、それは象徴的なものでしかなく、彼が去った後には代わりは幾らでも見つかるだろうという皮肉。ウェラワッタが舞台という設定。