エリザベス:ゴールデン・エイジ(UK/2007)をNTFLXで。
前作から9年を経ているとは思えないくらいの作風の揺らぎなさ。好物の「ワルツ以前の西欧社交ダンス」も見られて満足。前作で若く脆く瑞々しい少女だったエリザベスが色々あって白蠟化してジャッキーンとなるクライマックスを持ってきて見事だったが、本作でも結局のところ再度のジャッキーンが山場となった。今度は戦争という巨大なストレスと中年の危機からの立ち直りで。今回もまた衣装が表現の鍵。前作から思ってたけど、この衣装、正確な時代衣装のようでいて、どこかにロンドン・アバンギャルドがある。中年の危機の演出として、侍女のベスという存在をアルター・エゴとして提示したのは出来すぎのような気がしたが、後から実在の人物と知り吃驚。それから、スペイン王フェリペの娘でまだ少女のイサベラが非常に印象的だったが、これも後から調べると歴史的にはそれほど目立つ人ではなかったようで、ドキドキしたのをどうしてくれようという気持ち。メアリ・スチュアートの最期のシーン、貴人の処刑とはこういうものなのかと勉強になった。オーストリアの王子が英語に苦心していたところもよかった。
エリザベス(UK/1998)をNTFLXで。
インド映画じゃないもので息抜きしようと再生して3分で思い出した、シェーカル・カプール監督作じゃん。87年のMr. Indiaはこてこてマサラ映画だった。94年の『女盗賊プーラン』は未見だけど、これで国際映画市場で頭角を表したと言うことなのか。それにしても10年の時を経てのこの作風の大転換には口あんぐり。カズオ・イシグロなんかもそうだけど、アジア人がイギリスでこてこての英国調をやっちまって成功するのはなぜなのか。ともかく本作や『ゴールデンエイジ』を観て絶賛してる連中には、是非ともMr. Indiaを観て度肝抜かれて欲しい。しかしまあ、主演女優の演技とビジュアルで9割方が決まってる作品だ。宇宙人みたいな顔の造作がどんどん研ぎ澄まされていき、最後に完成形になる。柔らかく瑞々しい若芽が、凍てついた氷の女王になるドラマチックさに痺れる。衣装を中心とした考証は、時代の厳密な再現というよりはファンタジー的造形か。メアリを演じるファニー・アルダンのメアリは現代人的存在感が溢れてしまってちょっと場違いな感じがした。愛人役は余りにもらしさが過ぎてつまらなかった。
C U Soon (Malayalam/2020)をUSAPで。
コロナ禍で苦しむ制作スタッフのために、基本的に俳優と監督だけで(しかも俳優たちも基本的には室内にとどまりながら一堂に会することなく)作った、メタなメッセージを持つ実験作。だから一般作品と比べてどうこう言うべきものではないのはわかる。チャットとボイスメッセージ、スマホまたはPCによるインターネットTV通話、それにオンライン会議ツールの上でやりとりされるインタラクションを、スマホまたはPC上の画面動画キャプチャという形で見せる。これはこれで現代人のリアリティーだよなと思いながら眺める。ただし、普通ならビデオチャットを一旦切るようなところでも、それをせず登場人物のアクションを説明的に見せるところもある。自身が善と信じる目的のためならば不正行為もあえてするというインド的行動様式も取り入れられて、ハッキングその他のグレーな行為もガンガンに、しかも易々と行われる。今ひとつよくわからなかったのは、監視カメラの映像の意味。元締めが逃げた女のもとに来て帰国のためのあれこれを女に渡す、それから女が去り際にSIMを捨てるところ。これらの解釈は?
Forensic (Malayalam/2020)をNTFLXで。英語字幕付き。
女性警部と法医学者が心ならずもチームを組んで連続女児誘拐殺害事件に挑むというもの。女性警部が最初の方で「捜査は自分の領分、お前は法医学の分野で命じられた通り報告をすればいい」と告げるのだが、ストーリーはそれと真逆に進み、法医学者が捜査を先導し、分析し、犯人との格闘までして解決に導く。女性警部の方は必死に後から追いかけ、時に感情的に撃沈されたりして弱さが目立つ。これ、男の警部と女性の法医学者という組み合わせならもっと目の覚めるようなものになったのではないか。最初の方で妻殺しの容疑で尋問を受けていた警察官が、最後の方で制服を着て職務に復帰していたのが腑に落ちない。サイコパスの性格設定も雑。自らの手で殺すことに異常な快感を持っていた殺人鬼が、10年前の事件を期に、「下請け」に出すようになったというのもどうかと思うし、性的なもの一切を拭ってしまったところにも違和感あり。サイコパスが最初に冒した殺人がイージーに見逃されていたのも突込みポイント。片方だけしか作動しなかったエアバッグも、10年以上捕らわれていた犠牲者も。
『2人のローマ教皇』(英米伊亜/2019)をNYFLXで。
予備知識なく臨み、つい昨日の歴史を題材に、今も存命中の人物をモデルに自由に組み立てたフィクションだと知り吃驚。80代と70代の爺さん二人の対話を125分間見せるというのが凄い。凄いしズルい。カトリック界の頂点に立つ二人が時代衣装(教皇や枢機卿の衣装はルネサンス期のものとほぼ変わらない)で対面すれば、何をしてもビジュアルな驚き(その背景がシスティーナ礼拝堂だったりする)だし、時にかわゆい。場面場面で言葉が切り替わるのも非常に知的な部分をくすぐる。保守派と改革派、ヨーロッパとラテンアメリカという対立軸を持ちながらも、二人の対話は結局のところ、「神の声を聞いたかどうか」というシンプルなものに終始し、高踏的な神学論争には行かないところが好もしい。冒頭で航空券を予約するシーンが描かれる、新教皇のランペドゥーザ島行き(これは実際にあった)にはどんな意味があったのか。コルドバ(アルゼンチン)のシーン以外に視界の広いシーンがない本作、ランペドゥーザ島のビジュアルも欲しかったところ。
Babu Bangaram (Telugu/2016)をZee5で。
非契約者も見られるフリーストリーミングで。やはりヴェンカテーシュは90年代の遺産だけで今も食いつないでるスターという印象を新たにした。あとは若手スターと共演して兄貴分格で体裁を保つだけ。アップになるとメイクで塗り固めた皴がきつい。それでもスターをやってるのは、これぞお家の力というやつ。基本がコメディーで、そのうえに昔ながらのコメディアン1ダース総顔見せを久しぶりに見た。よく訳の分からない果物売り役のプリドヴィラ―ジは花柄のシャツをとっかえひっかえで目を奪われる。フィッシュ・ヴェンカトが悪役の手下でいつもヴァイオリン弾いてるとかもナイス。それでも最後に美味しいとこ攫ってくのは後半登場のブラフミーだ。箸にも棒にもかからぬB級作だけど、ヴェンキーのラストシーンでのおふざけアクションとかはさすがに上手い。律義に外国に飛んで撮ったダンスシーンとかでも、超絶技巧ではないけど上手く踊る。お約束のスキャンダル動画データが入ったペンドライブを巡る攻防では、バックアップという概念がない。バンコク=マッサージという謎のステレオタイプも健在。
Ranarangam (Telugu/2019)をSunNXTで。
予備知識なく見たが、ヴァイザーグを舞台にした禁酒法(州法)下のギャングの抗争という史実を下敷きにしたらしい。現地の評価はメタクソで、いちいち尤もだが、それでも切り捨てられない部分も残る。カリヤーニの好演、シャラワナンドの持つ雰囲気、曇天のヴァイザーグ港湾を描くスタイリッシュな映像など。「血の抗争」「スブラマニヤプラム」「ゴッドファーザー」を足して3で割ったような一作。1995年のヴァイザーグの部分だけを膨らませて一本にした方が良かった。ヴァイスロイホテルの変がTVに映し出されるところなど、ジンジンに痺れた。現在をなぜスペインにしたのか、一番のワルをどう始末したかが描かれないところ、もやもやが残る。定型にはまり切った部分(ナンドゥはやや寸足らず)と、リアリズムの部分とが分離したままで供されて、全体としてチマチマしたものになってしまったのが残念。カージャルは付け合わせみたいな役柄で、よくこんなのにオーケーしたものだと思う。カリヤーニはセルフダビングした模様。この子がキールティに次ぐネクスト・ビッグになるのかどうかが見どころ。
Bheeshma (Telugu/2020)をNTFLXで。英語字幕付き。
二ティン主演作にしては評判がいいらしいと聞いてたけどダメダメ。フォーミュラ的テルグ映画の出来の悪いパロディーみたい。職なし彼女なしのダメ青年が運命の悪戯からオーガニック食品大企業のCEO(ただし試用)になって、悪徳ケミカル・バイオ企業の悪徳CEOと真っ向対決(知力と腕力と両方で)するという話。へらへらダメ野郎が実は超人だったというの、NTRジュニアがやればファンタジーとして楽しめたと思うが、二ティンはそういうタマじゃない。ただもうイタくて薄ら寒くて頭抱えた。ソングはきっちり5曲あり、南イタリアで白人モブと踊るパターンのもので、映像は洗練されてはいるものの、発想が古臭い。冒頭でいきなりアナントナーグが出てきて驚いたが、翁も少し仕事を選んだらどうか。メイン悪役のジシュー・セーングプタはペラッペラでせっかくの男前が泣く。意外性はアジャイだったが、どんでん返しでいつもの情けない姿に。ヒロインはCEO室にズカズカと入り込んで戦略を訴えていたかと思うと、スーパーの野菜売り場で商品に霧吹きしてたりで、まともなキャラ造形もない。
Kolaiyuthir Kaalam (Tamil/2019)をNTFLXで。英語字幕付き。
大仕事を終え何かリラックスできるものを探したのにナヤンにつられてこれを見てしまい、しくじった。アメリカの有名なスラッシャー映画(このジャンル名を初めて知った)のリメイクとのことで、まあそうだろうなと思った。監督がチャクリ・トレティと後から知り頭を抱えた。A Wednesdayのなまくらリメイクを撮った奴じゃん。舞台がサセックスの古い城館という時点でリアリズムとは無縁だということはわかるが、それはリメイクとしてのローカライズの手間さえ省いたということでもある。これに比べるとファハド主演のVarathanは魂のこもったものだった。トレティ監督の欠点は、感情の綾が構成するドラマをうまく作れないところにあるか。ラストシーンなど、単に観客を驚かせたいがためだけのどんでん返しで、意味がほぼない。雇い主が死んでしまったのにまだ仕事を果たそうとする請負いキラーなんているか?そもそもヒロインが何したい人なのか。ブーミカはすっかりオバさんの顔になった。懐中電灯モードのスマホを口に咥えたナヤンはそれでも美しかった。
Imaikkaa Nodigal (Tamil/2018)をYTで。英語字幕付き。
2018年9月にこれをバンガロールで見てるはずなのに、ここに何も感想を書いてない。その時は字幕無しで見たはずなのだけど、どんな感想だったか確かめようと思ったのに。記憶にある限りの読後感は今回と同じ。強いナヤンはいいけど、化粧とハイヒールに若干の違和感。本来引き立て役でいいアタルヴァーに随分と見せ場を作ってやったせいで長尺になった。そしてこのキャラには無痛症で超人的身体能力というヒーロー映画の慣用表現が忍び入っているし、友人も調査&作戦遂行能力高すぎ。初見時には姉のトラウマ的過去を弟が知らないのはどうよとも思ったけど、字幕付きで見て一応理屈が通ってるのは分かった、納得は難しいけど。回想の結婚式シーン、神父が出てくるのはなぜなのか。クリティに絡むモデル野郎がどこから見ても芋くさいのも不思議。字幕があっても分かりにくい箇所はある。しかしまあ、残虐シーンは特にないにもかかわらず、謎解きの快感よりは鉛の重苦しさが残るのはなぜか。メイン登場人物が何かを成し遂げ、生き残るのと引き換えに命を落とす人々が結構多いせいか。
Shubh Mangal Zyada Saavdhan (Hindi/2020)をDVDで。
インドのメジャー映画が初めて持ちえたゲイ・コメディーということで記念すべき一作であり、製作者も十分にそれを意識していたことが窺えるが、あまり感動はない。5年か10年ぐらいしたら、保守的とされるタミル語映画あたりから、ずっしりと重みのあるゲイ・ロマンスが出てくるのではないか、そんな気がした。DDLJのパロディーから始まり、結婚式の祝祭を背景にした三角関係ロマンスのパターンを踏襲した安定の構成だが、ストーリーは水のように薄い。クライマックスに当たる部分が見当たらない気がする(虹色マントで演説する部分だろうか?)。それから片目の視力を失った従妹とその高齢のフィアンセとのエピソードも不完全燃焼で気持ちが悪い。それでも今の日本だとこういうのが好評を持って受け入れられたりするのだろうか。ヘテロだろうがゲイだろうが、要するに男二人の揉みあいが見られれば受けるのか。当のLGBTコミュニティーが本作をどのように評価するかを読んでみたい。コメディーシーンは、字幕が良くないのかロジックが分からず、あまり笑えなかった。
Amaidhi Padai (Tamil - 1994)をDVDで。8/23。
ずっと気になってたのをやっと観た。字幕が台詞より遅れ、しかもどんどん遅れが広がってくという酷いDVDでだけど。くせ者のマニヴァンナン監督らしいどぎついサタイア。寺院で割られたココナツを拾って生きている最底辺の男が、人を駒のように扱いながら出世していき、チョーランという御大層な名前で政界に進出し悪虐のかぎりをつくすが、レイプによって生ませた息子によって成敗されるという話。父子両方をサティヤラージが演じるが、一応正義の側ということになっている息子の演じ分けに難があり、善と悪の対決に見えない。舞台は西ガーツ山麓の風光明媚などこか。邸宅シーンはコッランゴード宮殿だったのではないか。一番の見どころである悪徳政治家の極悪非道ショーは見事。カースト間の対立を煽り、ダリトの村を焼き討ちするエピソードなどは、その後のポリティカルスリラーでも幾度となく繰り返されてきた。つまり現実にあったことなのだと思う。MLAなのだからチェンナイで活動するシーンがあってもよさそうだが、それがないのはMLAというのが地域の帝王だということなのか。
Thadam (Tamil/2019) をSunNXTで。
俳優一家に生まれたのでヒーローデビューしたものの鳴かず飛ばずのB級だったアルン・ヴィジャイが、Yennai Arindhaal (2015)の悪役で一気にブレイクし、似たような脇役数本を経てヒーロー格になったという話は聞いていた。そういうのを初めて見たのが本作。一人二役、しかも一卵性双子役という設定は、ファンサービスなのか演技力を補うためのものなのか。この俳優をどう評価するか微妙。YAで確立した陰りある色悪というキャラはそのまま流用されてる。それほど背が高くない代わりにとでもいうのか、ボディビルに励んだ成果を披露してる。しかしやはり芝居自体はやや単調なのではないか。一人二役七変化ショー(いや、変化してないか)をやるにはまだスターとしてのカリスマが足りない気がした。本作がデビューと後から知ったシュルティ・ヴェンカトは良かった。それから、Bigilにもでてきたチンクシャ顔グロ小父さんはジョージ・マリヤン、結構なキャリアを重ねている。よくまとまったスリラーだが、ジャヤム・ラヴィにとってのThani Oruvanほどのインパクトはない。
Dhanak (Hindi/2016)をNTFLXで。
日本語題名は「レインボー」。ナーゲーシュ・ククヌール監督は気になってた。Hyderabad BluesでのNRI的韜晦からうって変わった心温まる児童映画。知った顔が1人も出てこない映画は久しぶり。シャールク・カーンに会うための幼い姉弟の旅路。インド映画の見過ぎでそういう状況には最悪の結末しか予想できなくなってるけど、善人悪人、それぞれが交互にやってくる中を空中ブランコでひらりと飛び移るかのように2人は旅していく。とは言え、中年男が姉に近づいていくとやはりぞわりとしたものを感じる。結末はファンタジーとリアリズムの合わせ技で上品にまとめられているが、もう少しサルマン・カーンにもリスペクトを盛り込んでもよかったのではないか。大人たちの中では謎のジプシー女役のフローラ・サイニがよかった。ラージャスターンが舞台なのでカラフルな装いの人々が多数登場する(まあ随分パリッとした服着てる、全員が)のだが、その中でも遊牧民とジプシーと定住者とはやはり違うようなのだった。その辺りの解題が欲しい。それから冒頭のバナー表示のアニメがやたらセンスが良かった。
Punyakoti (Sanskrit/2020)をNTFLXで。英語字幕付き。
いわゆる「フルアニメーション」ではないのかな。動きがカクカクしている。しかしそれはもう織り込み済みで、作画の美しさで勝負したという感じだ。伝統演劇の影絵の図案からインスピレーションを受けたと思われるヴィジュアルが、構図、線画、色彩構成、タッチ、どれをとっても美しい。説話の映画化ではあるが、それほど分かりやすい話ではない。狐と虎の関係、謎の麻薬的果実など、子供に意味を尋ねられたとしても簡単には答えられない挿話も多い。レーヴァティがタイトルロールの吹き替えをしている(台詞は多くはないのだが)に吃驚。イライヤラージャーが作曲というのも豪華で、通俗映画と同じくソング&ダンス・シーンがあった。面白いのが、動物たちの中の区分けで、家畜である牛たちと、野生動物たちの間には、言葉が通じるとはいえ、はっきりと隔てがある。家畜の中で神と通じる能力のある聖牛プンニャコーティは、それでもやはり自然界の食物連鎖を知っており、その連鎖の一部として我が身を投げ出すことを厭わない。このエピソードとジャータカの捨身飼虎の関係が気になる。