Diés Iraé (Malayalam/2025) をオンラインで。
注目のラーフル・サダーシヴァン監督の最新作。相当に怖いと聞いていたけど、自宅で休み休み観たせいか、それほど。前々作『Bhoothakaalam』のほうが怖かった。でもクライマックスのシーンでは、怖さというより「早よせい!」感で肩に力が入ったのは確か。在米NRI建築家の息子で、コッチでも大邸宅に住む富豪。アメリカ流に異性ととっかえひっかえ付き合い、パーティーライフを楽しむ。しばらく前にうっとうしくなって捨てた女性が自殺したことでさすがに衝撃を受ける。普通の観客なら共感を拒むアンチに近いヒーローを演じるプラナヴの役作りはまずまず。しかし多くのロマンス映画やホラー映画で当て馬的に登場する鼻持ちならない富豪の息子(悲惨な最期を遂げて観客の留飲を下げる)とは違う厚みを持ったキャラクターにしているのはプラナヴが持つ天性のものか。シャイン・トム・チャッコーの写真での出演は微妙な感じ。あそこでは見慣れた顔じゃない方がよかったのではないか。このキャラはキーになっているけど、その最後などのエピソードの詳細ははっきりせず、やや不満が残る。
Past Lives (Korean/2023)をNTFLXで。
邦題は『パスト ライブス/再会』。あの地下鉄の中のシーンのスチル写真(メインビジュアル)がどう見ても『’96』だったんで、リメイクなのか、インスパイアなのか気になっていた。多少情報を漁ると、ヒロインの設定には韓国系カナダ人であるセリーヌ・ソン監督の自伝的要素が強いことが分かった。しかし女性が外国住まいで既婚、男性は未婚の設定、幼い恋が成就せずに親の都合の移住で突然引き離されてしまったとか、女性のほうが明らかに社会階層が上だとか、最後の対面シーンのあれこれとが、既視感がある。それから、感情移入をさせられながら分かりやすい恋愛の勝利にならないという点で一部の観客が憤激してしまったという点でも似ている。別にパクリとかそういうのじゃなく、どこかに接点があったのだろうか。「イニョン(縁)」の説明のところで、「袖すりあうも他生の縁」がそのまま出てきて驚いた。元は仏教からきてるんだろうか。「パスト・ライブス」というタイトルは前世とも過去においてきた生活とも取れる。このレビューは参考になった。https://www.tbsradio.jp/articles/82771/
Pushpa2、
上映の45日前というショートノーティスは、基本的には短期決戦で上映実績を作るため(本来の目的はインドで日本映画を公開する方)ということなのか。しかし一方で3時間42分の作品で今日時点で56館のブッキングというのは大化けを狙ってるか(松竹のパワーを見せつけてる)。一方でMVの方は一時の勢いと数合わせで買い付けた会社が、結局扱いかねてニッチ作品を扱うプロダクションに下げ渡したというところか。
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=pushpakunrin
Hridayam (Malayalam/2022)をオンラインで。
は作為が感じられるが、立ち直りの契機としてはそれなりの説得力があった。それにしてもモーハンラール、プリヤダルシャン、シュリーニヴァーサンの子供達の映画を見て楽しむことになろうとは。/最後まで見ての感想。いわゆるComing of Ageもので、複数の恋愛経験で初めて大人の男女が完成するというAutographやPremamの系譜。さらにBad Girlや’96の要素もある。芝居の上ではダルシャナ・ラージェーンドランに一番の見せ場。カリヤーニは、やや型にはまったキャラクターで、後半に登場してかなり早回しの中で演技させられていたような感じ。後半の社会人編ではヴィニート監督らしい綺麗事の御伽噺がやや目立った。プラナヴの演じるアルンは前半で「ストーカーなどしない、正面から挑む」と新世代の言明をするが、それでも相手を裏切る行動をしてしまう。それにより愛を失い、手痛い経験から学んで成長する。その辺のリアリティーがとても良い。音楽は、ムスリムのMDなのにカルナーティック風味が随所にあるのが珍しく、ところどころにアラビックなテイストも。
Hridayam (Malayalam/2022)をオンラインで。
172分の長尺、2日に分けて観た。全15曲もあり、サントラは約45分の音楽映画でもある。まず前半だけ見た時点での感想。ヴィニート・シュリーニヴァーサン監督作と知らずに見てたけど、ヴィニートが監督として随分成長していた。同じ若者のロマンスを描いていても、昔の悟り澄ましたような頭でっかち青臭ロマンティシズムから脱皮して、暗部もきちんと描けるようになってる。久しぶりに見たプラナヴも大変良い。どこにでもいそうなトッぽいニイちゃんなんだけど、名状しがたい趣きがある。薄っすらとラクシト・シェッティに似てるけど、より柔らかな何かを持ってる。32歳にして本格デビューから4作目。スーパースターの息子の特権を、お膳立てされた鳴物入りヒーローデビューではなく、いい脚本に会うまで待つ時間や、メディアシャイを通すことに使っている。前半ヒロインのダルシャナ・ラージェーンドランもいい。ボリウッド型ケバ系美女の制度的綺麗どころとしてのワンパターンから完全に自由。ヒシャーム・アブドゥル・ワハーブの音楽もいい。カレーシュ・ラーマナンド演じるセルヴァのキャラ
The Fall (English/2006)をヒュートラ有楽町で。
あれこれレビューを拾っていたら、インスピレーション元のひとつにパラジャーノフの『ざくろの色』があるという情報。それで何かカチリとはまるものがあった。本作は映像詩として完成された美しいものであるけれど、究極ではない。いわば広告コピーにシンクロさせて秒あたりの予算も広告並みに注ぎ込んで完成させたMV。しゃれたストーリーもある。一方『ざくろの色』は、広告コピーではなく民族の文化の源泉たる詩の世界の映像化。どう考えてもステージが違う。
The Fall (English/2006)をヒュートラ有楽町で。
ほぼ予備知識なく見た。まず主役のリー・ペイスの顔が少し前のカナダの首相にそっくりに見えた。そして予想通り石岡瑛子のPARCO的な世界の連続。途中の挙行しそこなった結婚式のシーン、旋回舞踊のせいで結婚式と認識できずに終わった。終盤になると病院スタッフや患者が王国の中の人物と照応していることが分かってくるのだが、1回の鑑賞では照応関係がきちんと把握できなかった。特に女性看護師と映画の主演女優のどちらが王国にヒロインなのか分からないまま終わった。悪役であるヒーロー俳優にはルドルフ・バレンティノの面影があるか。矢の床、目隠し、泳ぐ象など、叙事詩的なイメージも散見されるが、ストーリー全体に神話の再話の意図は感じられない。冒頭のモノクロの映画撮影のシーンは、もしかしてR3の火を噴く列車のシーンの発想の源か。監督はCMディレクターをやっていた人らしく、15秒で勝負するCMのキメ映像がずっと続く印象。ふわりと宙を舞うようでいながら確実に落下していく物体のイメージへのオブセッションがこれでもかと繰り返される。創始期の映画へのオマージュ。
Yakshi – Faithfully Yours (Malayalam/2012)をDVDで。
久しぶりに字幕なし。83分しかない低予算映画(宣伝文句としては実験的作品と言ってたらしいが)。ストーリーは単純で、19世紀ぐらいのケーララのどこかで、ナンブーディリ・バラモンの息子ウンニが雨の夜に出会ったナーガヤクシに誘惑されて関係を持つ。しかし彼は親の決めたミーナークシと結婚するためあっさりとヤクシを捨てる。新婚初夜にミーナークシに取り憑いたヤクシはウンニを殺し、自身の宿主も殺す。一方、現代の若者4人組がヤクシ伝説に興味を持ち、ドキュメンタリーを撮ろうとしてかつてウンニの一族が住んでいた廃屋に忍び込むが、中心人物ヴィシュワ以外の者が殺される一部始終がフッテージとして示される。19世紀部分はカラオケのイメージ動画風の安っぽい演出とぎこちない芝居、一方現代の方は、フッテージなのに効果音やBGMが入るご都合主義。ヤクシ役のアヴァンティカ・モーハンは、ホステス風でいいとこなしの上に、肝心の憑依のシーンはパールヴァティ・ナーヤルに任せるしかないというダメっぷり。エンドロールのヘビメタが印象的だった。
Identity (Malayalam/2025)をオンラインで。
150分盛り沢山アクション。まず不幸な生い立ちにより強迫性障害となった男ハラン導入。コインバトールのアパレル店での試着室盗撮とそれを材料にした恐喝。その犯人が郊外の倉庫で何者かに惨殺される。その捜査で証人保護保護プログラムの元匿われるバンガロール・ベースの女性ジャーナリスト。目撃した犯人の顔をスケッチさせるが、彼女は事故の後遺症で相貌失認であることが分かる。スケッチを担当したのはハラン。やがて捜査を担当しているカルナータカ州警察のアレンが一連の性犯罪録画による恐喝に深く関わっていることが分かり、ハランとアレンのくんずほぐれつの戦いが始まる。ハイウェイでのカーチェイス、旅客機爆破の試み、プライベートジェット内での死闘、ダレはしないけど詰め込みすぎで不完全燃焼。試着室盗撮犯の元締めみたいなセコい悪人がプライベートジェットで逃亡のお膳立てをされる大物になるのが最大の謎。レントゲン室のエピソードはわかりにくかった。ハランの幼時のトラウマは別になくともよかったんじゃないか。証人保護といっても劇中の犯罪現場が白昼堂々で意味なさすぎ。