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Veera Simha Reddy (Telugu - 2023)をヒューマントラストシネマ渋谷で。 

祝祭シーズン激突テルグの2作目。こちらはずっと同じハイテンション。イスタンブールでレストラン経営の女性とその息子。息子が恋をして結婚話になったので、訳あって生き別れていた父親をインドから呼び初めて対面させる。そこから父のラーヤラシーマでの行跡が辿られる。父はいつものように村の守護神で、具体的な生業はなさそう。重度にナラシンハのイメージがちりばめられたファクション抗争。アクションは初っ端から飛ばし過ぎて後半はややマンネリ化していたかも。ともかく景気よく腕や首が飛ぶ。Totally 12 Action episodesとする記事があった。ハンニ・ローズが父の恋人役というのは意表を突くキャスティング。ほんの一瞬のセダクトレス的場面のために選ばれたのか。62歳バラクリの母役や育ての父親役などが明らかに実年齢では年下なので、クラクラする感じ。ドゥニヤ・ヴィジャイもまた2代を演じているがこちらは非常に良い。演じ分けもしっかりしてる。ヴァララクシュミの演じたキャラクターはパダヤッパのラムヤを思わせる。

Waltair Veerayya (Telugu/2023)をヒューマントラストシネマ渋谷で。 

前半は驚異的なテンポの良さと面白さ。マレナードゥの田舎の警察署で起きた惨劇。復讐を誓う生き残りがマレーシアに逃げた主犯ソロモンに報復しようと誘拐請負人を雇う。なぜかそこから舞台はヴァイザーグに移り、漁師かつ密輸業者であるワルテール登場。マレーシアでの珍道中。ケチな犯罪者である主人公が密輸(ブランド品や高級洋酒)をしてるってのがレトロ。ソロモンを血祭りにあげるインターミッション前アクションはブチ上がる。後半になって登場のラヴィ・テージャは死亡フラグを背負っていて辛い。全盛期が終わったことは十分わかっていても、なんだか一回り縮んで見えた。久しぶりに登場のシュルティは大変良かった。セクシーすぎるホテルのバトラーからRAWの工作員への変貌、そして一瞬のお色気シーン。実際は知らないが、お飾りセクシー要員のキャラも余裕でこなしている感がいい。それにしても同時公開VSRと、ヒロインのキャスト、腹違いの兄弟・兄妹設定とか、最終的には一刀両断の斬首とか、共通しているのが不思議。ボビー・シンハの存在感も良かった。

Varisu (Tamil/2023)を川口スキップシティで。 

ヴァムシ・パイディパッリ監督+ディル・ラージュがヴィジャイと組むという異色の顔合わせだが、世評通りまんまテルグ映画だ。ヒーローの首だけヴィジャイにすげ変わってるような異様さ。またはヴィジャイのテルグ語映画初主演作のタミル語吹き替え版か。ビルが林立する町の風景はハイダラーバードに見える。メインの舞台も例によって会員制の超高級リゾートみたいだし、室内はフラワーショーか何かだろうかという非現実感。最高級ファッションの展示会でもある。KGFみたいな鉱山と荒くれ沖仲仕のいる港湾のシーンは刺身のツマ程度のもの。大企業オーナーの3男が自由を求めて家出するが、末期癌が判明した父のそばにいるために帰還して、企業トップの座を継ぐ。上の2人の兄はそれに怒り父に敵対してきた企業人と手を結び、一家は瓦解する。末っ子は機転と誠意とでライバル企業を打ち負かし、兄たちの心を溶かして一家の和合を取り戻すというストーリー。既存作ではAla Vaikunthapurramlooが一番近いか。シュリーカーントとシャームの脇役ぶりに涙。テルグとタミルの違いのお手本。

『バリー・リンドン』(USA/1975)を国立映画アーカイブで。 

3時間5分、途中10分の休憩付き。これを以前に一回だけ観たのは多分大学生時代だったと思うので、何年ぶりかとか考えるだけでも恐ろしい。あの櫛で梳くように兵が死んでいく戦闘の場面と、マリサ・ベレンソンの立ち姿だけしか覚えておらず、新鮮に見ることができた。アイルランドの没落貴族の末裔が行き当たりばったりのハッタリと幸運とで成り上がるが、貴族社会の壁と運の尽き(あるいは生命力の減退)によって敗れ去っていく様を昆虫の観察日記風の突き放した視線で、しかし執拗に追った一代記。決闘に始まり決闘に終わる。小悪人や悪人が登場し、感情移入できる者やできない者が入り混じるが、神の視点からはいずれも歴史の渦の中に消えていく駒でしかない。啓蒙主義の時代の偉大は見当たらない。時代精神の表出という、普段見ている某国映画ではあまりお目にかからないものを久しぶりに堪能した。マリサ・ベレンソンはもっと大味なルネサンス的な大女の風情だと記憶していたが、むしろ60~70年代のポップ&サイケのテイストが勝っていた。資料:kubrick.blog.jp/archives/cat_5

Nayak (Bengali/1966)を国立映画アーカイブで。2回目。 

今回は字幕を噛みしめながら。知性の翳りとエッジのきいた映像だけではなく、芸道もの的要素もあるのに気づいた。まず師匠であるションコルとの間での演劇と映画を対比した問答。映画俳優は操り人形、映画に芸術はないと言い切る師匠。俳優としてのデビュー作で新人だが主演俳優である主人公にハラスメントをするベテラン俳優。主人公にベタな演技を無理にさせる。その4シーンの不本意に臍を噛む主人公だが、映画は大ヒットして彼はスターになる。その後「フロップが3回続いた」せいなのかベテラン俳優は尾羽打ち枯らして助けを求めてくる。そしてインタビューを申し込むオディティに対して、知らない方がいいこともあると告げる(全部話したらファンを失う。我々は光と影からできている。全部を晒すべきじゃない。我々が血と肉からできることは秘匿すべき…というような内容)。既婚なのに未婚と偽り主人公と関係を持つプロミラと、映画界入りを望むボースの妻とは対になっている。映画がいかがわしいと思う人もまだ多かった時代を活写。シナリオscripts.com/script/nayak_14622

ROBOT & FRANK (USA/2012)をDVDで。 

邦題は『素敵な相棒 フランクじいさんとロボットヘルパー』。某国某作がこれのパクリなのではないかとの疑惑の検証で。結果としては、着想の元にしたのは確かだがパクリではないというところ。邦題は無理にヒューマンドラマにしようとしているが、実際は、老いの悲しみ、先進的な人間への反感、感情がないのでブレというものがない機械への信頼、このあたりが中心テーマ。近未来のNY州で見当識障害出てきた父親にロボットをあてがう息子。最初は反発した父も次第にロボットに依存していくようになる。ロボットは善悪の判断を行わないので、老人の家宅侵入+窃盗の手助けもするようになり、大いに活躍する。容疑者として逮捕しに来た保安官らを相手に頭脳的に立ち回って追及を逃れる。肝となるのは、ロボットだから感情は持たないが、サービスする相手の言動から計算して方便としての嘘もつくこと。この部分がまるで感情を持っているかのように見えるのが面白い。パワーエリートのヤッピーの厭らしさも十分に描かれていた。認知症になりながら泥棒人生最後の大仕事をやり切った爺さんの得意気なラストがいい。

Kurup (Malayalam/2021)をNTFLXで。 

ややこしそうなストーリーだと思ったが存外スルッと観られてしまった。犯罪者が主人公の本格的なピカレスクロマン。その犯罪に情状酌量の余地はなく、社会に対する異議申立ての要素も全くない、純然たる悪人の物語。変装で七変化するシーンが最大の見どころか。当人が殺人に手を下す描写はなく、他人を煽て凶悪犯罪を行わせる男。しかし粗暴な部分もあって、プライドを挫かれるような懲罰を受けたり、みっともなく逃走したりもする。山場はチャーリ殺しの場面。あっけなく殺される被害者をまさかのトヴィノ・トーマス、泣きくれる妻をアヌパマが演じているとは。ペルシャと言いながら明らかに中東なのは、政治的な配慮か。アレクサンダーという第三の名前は親父様のSamrajyam (1990)へのオマージュか。ただ大衆映画というメディアにおいてピカレスクをやるなら、「何だかイカした奴」提示だけではなく、病んだ部分をきちんと描出すべきではなかったか。警察車両の運転手に化けるくだり、中東のオイルマネーをどのように手玉にとったのかなどはもう少し丁寧に映像化してもよかったのではないか。

Mahapurush (Bengali/1965)をYTで。雑な英語字幕付き。 

先日見たNayakの中での言及が気になって。ランタイムは65分。Kapurush-o-Mahapurushとして2本ひとまとめで公開されたというのを後から知るが、もう片方も見るべきなのかどうか。Mahapurush-o-Kapurush(2013)というトリビュート作品もあってややこしい。チャルプロカシュ・ゴーシュの演じる登場シーンからすでに怪しいスワーミが魅せる。妻をなくし人生のむなしさを感じている老弁護士の心の隙間に取り入って邸宅で居候しながら商売に励む似非スワーミと、化けの皮をはがそうとする4人の男たち。いやらしい宗教家を描きながらも全体的にはカラリとしたコメディー。冒頭での、列車の乗降口に足を突き出して跪拝させるシーンの秀逸。PKやOMG、その他もろもろの宗教サタイアに登場する似非スワーミの全ての源流にして最高峰なのではないか。これに匹敵するのはNandanamのジャガティ・シュリークマールぐらいしか思いつかない。ロビ・ゴーシュ演じるスワーミの助手も、ニヒリズムを感じさせる小者キャラクターで良かった。

Nayak (Bengali/1966)を国立映画アーカイブで。 

邦題は「主人公」。久々にベンガルの知性の翳りをドボドボ浴びた、悲劇のヒーローもの。トリビュート作Autograph (2010)を先に観てしまっていたけど、どちらもそれぞれに良い。ベンガル語映画界の頂点にある俳優が、授賞式出席のためにデリーに向かう列車の中で、彼を崇めようとしない唯一の人物である女性編集者に過去の人生と悔恨とを語り、そうしているうちに自殺の誘惑に晒されさえするが、結局デリーに到着し、スターの仮面を再び身に着けて去っていくという話。ウットム・クマールが作り込まれたスター・ペルソナだったり、不安定な生の人間だったりする揺れ動き、「くだらない映画」に対する痛罵、映画界への見下し(なりふり構わず映画界に入ろうとする女性のキャラクターが2人も出てくるが)、舞台の全体性と映画の断片性との比較、などなど。社交の場としての長距離列車のコンパートメントの人間模様、Mahapurush (1965)の生臭坊主がちょっと出てくるシーンはRay'sCUの趣き。編集者のインタビューを断るシーンと別れのシーンとのシニカルな台詞がいい。

大晦日の映画見終わりまではベストは決められんと思ってたから保留だったけど、2022のベストが確定した。 

@PeriploEiga 昨年は観た映画全部ひっくるめた中でのベストテンが同年と前年のもので占められたという点で自分史上空前だった。そしてインド映画の興収でも、サウスが席巻し、特にカンナダが3本もランキング入りしたという点で画期となる年だったのかも。

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Mirch Masala (Hindi/1987)をMUBIで。 

前日の黒星を挽回しようと前々から気になっていたMUBIに加入してみた。入ってみたら当てにしてたマラヤーラムの古映画はほとんど「現在視聴不可」で騙された気分。パドマラージャン作品も実質ゼロ。意地になって見たのが本作。舞台はサウラ―シュトラの農村で、インド独立前。スーベーダール(インド人将校としては上から2番目の地位)が小隊と共にやってくる。彼は村で目についた女を好きに食い散らかす。夫が村外に働きに出ているソーンバイはいち早く目をつけられて追い回される。彼女は唐辛子加工工場の堅固な建物に逃げ込み、守衛のアブは鍵をかけて他の女たちともども立て籠る。スーベーダールは村長に圧力をかけ、ソーンバーイが自ら投降しないと村全体を襲うと言う。彼女と共に籠る女たちも含めほとんどの村人が、諦めて投降するように促す。アブだけは彼女の側に立ち、兵士たちと戦って死ぬ。女たちが敷地内から進み出て、スーベーダールに次々と唐辛子粉をぶちまける。これはもう想定内で驚きはない。アートハウス映画だが、カラフルなダンスシーンがよかった。スミタ―の野生の美が眩しい。

Persuation (USA/2022)をNTFLXで。 

黒星スタート。観たいと思っていたものがオンラインで見つかって意気揚々と再生ボタンを押したら、Subtitles表示なのに字幕なし。ガッカリして日本語字幕付きの適当なものに流れた。邦題は「説得」で、ジェーン・オースティンの同名小説の映画化。保守的な社会の中で両家の子女が恋愛という幻想に人生の全てを支配されて悶々とするという世界。「ブリジャートン家」に続き、本作もまた19世紀英国上流階級の社交界の人士をアフリカ系やアジア系が演じている。「ブリジャートン家」の独創的実験だと思ったものが、実はもうハリウッドではノームになっているということなのか。時代劇でこれをやるというのは、限りなく映画が舞台に近づいているということなのか。ただ本作に関しては陳腐だし、人種を問わず主要登場人物の顔が良くない。例外的に親戚の娘役のニア・トールは非常に良かった。金のために何でもする男の役でのヘンリー・ゴールディング(マレーシア系華人)も印象に残った。皮肉屋のヒロインのキャラクターは最初は興味深かったが、途中から典型的なジェーン・オースティンになってしまった。

大晦日の映画見終わりまではベストは決められんと思ってたから保留だったけど、2022のベストが確定した。 

Joji (Malayalam/2021)
K.G.F.2 (Kannada/2022)
Vikram (Tamil/2022)
RRR (Telugu/2022)
Garuda Gamana Vrishabha Vahana (Kannada/2021)
Vendhu Thanindhathu Kaadu Part I: The Kindling (Tamil/2022)
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)
Kantara (Kannada/2022)
Chhello Show (Gujarati/2021)
Natchathiram Nagargiradhu (Tamil/2022)

Sita Ramam (Telugu/2022)をNTFLXで。 

その後レビューを漁ったりして、本作監督がAndala Rakshasi(2012)のハヌ・ラーガヴァプーディだと知り、ちょっと待て!となった。全体的に夢の中のようなフワフワとした雰囲気はARと確かに似ている。ただ、Sita Ramamを見て感じたのは、カシミールとハイダラーバードのニザーム宮廷、どちらも映像作家が良く知らない世界なのではないかということ。ニザームの末裔の浮世離れした貴族性とか、カシミールの「いいムスリムと悪いムスリム」の違いがはっきりしない曖昧さとか、そういったものを肌で知ることなく想像で適当に作ってしまった感がぬぐえない。ラーガヴァプーディはテランガーナ人ではあるものの、AP寄りの地域の出生で、ハイダラーバード文化にそれほど造詣が深いとも思えないのだがどうなのか。一般レビューでオスマン・トルコの帝室からニザーム宮廷に嫁いだNilufer Hanımsultanがモデルなどと書かれていたが、根拠薄弱で問題外だった。

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Sita Ramam (Telugu/2022)をNTFLXで。 

御曹司ものではないので、オフビートなロマンスなのだろうけど、妙に評判が良いのが気になって。純愛に印パ愛国モチーフを絡めたフェアリーテイル。御伽噺なのでパキスタン人がテルグ語を話すとかそういうところはいいんだけど、紛争地帯でのエピソードが全体的に雑なのが気になった(シーターは何をしにシュリーナガルの寒村に来ていたのか、高位軍人の孫であるワヒーダーがテロリストが潜む寒村にいたのは何故なのか、傲慢な上官クリシュナが途中でラームに好意的に振る舞う理由)。カシミールに浸透するムジャヒッディーン討伐の過程でラームは村人を救い英雄となる。沢山のファンレターの中で彼の妻を名乗る女性のものが気になり、ハイダラーバードまで会いに行って二人は恋仲になる。シーターという名の彼女は実際にはニザームの家の王女だったが彼は知らない。彼はLOCを超えてテロの首魁を殺すサージカル・ストライクを行い成功するが幼い女児を救うために逃げ遅れて処刑される。テルグ語映画でニザームへの言及がある珍しい例。入り組んで忙しいストーリーに頭が疲れた。スマントの無駄遣いに涙。

Godse (Telugu/2022)をNTFLXで。 

警察特殊部隊の女性捜査官がヒーロー仕草で登場して期待を持たせる。冒頭の立籠り事件での彼女の説得工作は乱暴な後方支援のせいで失敗し、人質の妊婦は殺される。一旦は辞職した彼女は財界人などを誘拐した犯人から交渉相手として指名される。ゴードセーと名乗る男はビデオ通話で次々と閣僚や実業家を呼び出させ、その過程でランダムに一部の人質を殺す。ここまでは大変よかった。しかしその後の長大な回想シーンは大ブレーキ。最終的には犯人もろとものNGK的結末。無職の大卒問題と政府・警察の腐敗、処方箋は愛国と暴力革命と復讐との大雑把なミックス。お約束のカメラを正面から見据えた長々しい演説。退職した元裁判長というのをわざわざ呼び出して「手段は他にあったろうが、君のやったことは社会のためになった」と言わせて敬礼までさせる。ファクション映画ならいいのだが、国のシステムを問題視しているテーマだてでこのあたりは問題含み。アジトでゴードセーのため働く男たちは何者かとか、英国帰りの富豪がビジネススーツに白ソックス(ボトムズが寸足らず)とは何だとか、解明されない謎は幾つかある。

Gargi (Tamil/2022)をオンラインで。ただしテルグ語吹き替え版。 

タミル・テルグ・カンナダマルチリンガル。画面に映る文字は全てテルグ語、舞台はハイダラーバードということになっている。空撮俯瞰ショットで映るのもHYD高裁。町並みは特定しにくいように作り込まれている。9歳の女児へのギャングレイプ事件の従犯として逮捕された老齢の父。警察は解決を急ぎ勇み足、弁護士会は弁護を拒み、被害者の親族は殺意すら示し、どこからか漏れた個人情報をもとに騒ぎ立てるマスコミ。父の無実を信じるヒロインは、頼りない新米弁護士と共に法廷闘争に臨む。警察の杜撰さが露わになり、被害者の証言の信憑性にも疑わしさが見えてくる。奇跡の逆転劇になるかと思ったら結末でまさかのどんでん返し。作劇としては上手いのだが、じゃあ覆って突き付けられた現実とヒロインがどう向きあったか、どう立ち直ったかが描かれないと画竜点睛を欠くと感じられた。それとアイシュワリヤー・ラクシュミがわざわざカメオで演じてるジャーナリストは、父の個人情報を暴露した当事者であるようなのだが、それについてはちょろっと疑問の言葉を口にしただけなのは気になった。

インド映画のマルチリンガル化でいいことがあるとしたら、雑にボリウッドと言ってもウッド警察にぎゃあぎゃあ言われなくなることかも。

Vaashi (Malayalam/2022)をNTFLXで。 

タイトルの意味はstubbornだという。法曹界で働く若い男女が仲間同士からやがて恋仲になる。異宗教婚だがそこは民度の高い家族に恵まれて何とかなる。婚約するまでにはお互いの心を言葉で打ち明けない中での以心伝心の機微があり、胸キュンのエピソードなのだが、後からそれがブーメランで返って来る。2人は検察側と被告側弁護人として法廷で対決する。はっきりと告白せずに性交した若いカップルのうち、女性が結婚を求め、男性がそれを拒否したことでの争い。「性交したら結婚しなければならない」という暗黙の前提の下で戦われる舌戦。女側に検事の夫、被告の男側に弁護士の妻がつく。白熱した論戦は非常に面白い。法廷で思わず直接やりとりをして裁判長にたしなめられるシーンも。法廷に私情を持ち込むことを戒めるあまり必要以上に激しく対立し、私生活の方にそれを持ち込んでぎすぎすしてしまう。多少の波乱はありつつも、概ね順当な判決が出て、夫側が勝ち、初めてゆったり話をする2人。人の心にまつわる事件での判決の相対性を暗示して話は終わる。現地レビューは厳しいものが多く、驚いた。

Darlings (Hindi/2022)をNTFLXで。オリジナル映画。低品質日本語字幕付き。 

ムンバイの庶民的な地区で暮らすムスリムの夫婦。夫はインド鉄道勤務の公務員だが、実質的には上司の用務員でフラストレーションを溜めており、それを飲酒と妻への嗜虐的ハラスメントで晴らしている。妻はそれを耐え、飲酒癖さえなければいい人間で、自分を愛しているからつい吐け口にしてしまうのだと言い、周囲の諫言に耳を貸さない。これが前半延々と続き、VRとAB両方の演技が迫真的なのでいたたまれないきもちになる。ローシャン・マーチュはこういうドラマにありがちな不思議キャラ。後半で妻が反撃に転じる場面は小気味いいが、最終的には悪者は力で排除していいという伝統的な結論に至る。アーリヤーの典型的なDV被害者の隷属心理の描写が怖すぎる。特に母親に向かって「ママは愛されてなかったからパパに逃げられた。でも私は暴力を振るわれても愛されてることが分かってる」などと言うあたり。昔世間で絶賛されてたので読んだ『自虐の詩』がさっぱりダメだったのを思い出したが、あの漫画の居たたまれなさが本作で解消したかというとそんなことはなかった。

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