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Mahapurush (Bengali/1965)をYTで。雑な英語字幕付き。 

先日見たNayakの中での言及が気になって。ランタイムは65分。Kapurush-o-Mahapurushとして2本ひとまとめで公開されたというのを後から知るが、もう片方も見るべきなのかどうか。Mahapurush-o-Kapurush(2013)というトリビュート作品もあってややこしい。チャルプロカシュ・ゴーシュの演じる登場シーンからすでに怪しいスワーミが魅せる。妻をなくし人生のむなしさを感じている老弁護士の心の隙間に取り入って邸宅で居候しながら商売に励む似非スワーミと、化けの皮をはがそうとする4人の男たち。いやらしい宗教家を描きながらも全体的にはカラリとしたコメディー。冒頭での、列車の乗降口に足を突き出して跪拝させるシーンの秀逸。PKやOMG、その他もろもろの宗教サタイアに登場する似非スワーミの全ての源流にして最高峰なのではないか。これに匹敵するのはNandanamのジャガティ・シュリークマールぐらいしか思いつかない。ロビ・ゴーシュ演じるスワーミの助手も、ニヒリズムを感じさせる小者キャラクターで良かった。

Nayak (Bengali/1966)を国立映画アーカイブで。 

邦題は「主人公」。久々にベンガルの知性の翳りをドボドボ浴びた、悲劇のヒーローもの。トリビュート作Autograph (2010)を先に観てしまっていたけど、どちらもそれぞれに良い。ベンガル語映画界の頂点にある俳優が、授賞式出席のためにデリーに向かう列車の中で、彼を崇めようとしない唯一の人物である女性編集者に過去の人生と悔恨とを語り、そうしているうちに自殺の誘惑に晒されさえするが、結局デリーに到着し、スターの仮面を再び身に着けて去っていくという話。ウットム・クマールが作り込まれたスター・ペルソナだったり、不安定な生の人間だったりする揺れ動き、「くだらない映画」に対する痛罵、映画界への見下し(なりふり構わず映画界に入ろうとする女性のキャラクターが2人も出てくるが)、舞台の全体性と映画の断片性との比較、などなど。社交の場としての長距離列車のコンパートメントの人間模様、Mahapurush (1965)の生臭坊主がちょっと出てくるシーンはRay'sCUの趣き。編集者のインタビューを断るシーンと別れのシーンとのシニカルな台詞がいい。

大晦日の映画見終わりまではベストは決められんと思ってたから保留だったけど、2022のベストが確定した。 

@PeriploEiga 昨年は観た映画全部ひっくるめた中でのベストテンが同年と前年のもので占められたという点で自分史上空前だった。そしてインド映画の興収でも、サウスが席巻し、特にカンナダが3本もランキング入りしたという点で画期となる年だったのかも。

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Mirch Masala (Hindi/1987)をMUBIで。 

前日の黒星を挽回しようと前々から気になっていたMUBIに加入してみた。入ってみたら当てにしてたマラヤーラムの古映画はほとんど「現在視聴不可」で騙された気分。パドマラージャン作品も実質ゼロ。意地になって見たのが本作。舞台はサウラ―シュトラの農村で、インド独立前。スーベーダール(インド人将校としては上から2番目の地位)が小隊と共にやってくる。彼は村で目についた女を好きに食い散らかす。夫が村外に働きに出ているソーンバイはいち早く目をつけられて追い回される。彼女は唐辛子加工工場の堅固な建物に逃げ込み、守衛のアブは鍵をかけて他の女たちともども立て籠る。スーベーダールは村長に圧力をかけ、ソーンバーイが自ら投降しないと村全体を襲うと言う。彼女と共に籠る女たちも含めほとんどの村人が、諦めて投降するように促す。アブだけは彼女の側に立ち、兵士たちと戦って死ぬ。女たちが敷地内から進み出て、スーベーダールに次々と唐辛子粉をぶちまける。これはもう想定内で驚きはない。アートハウス映画だが、カラフルなダンスシーンがよかった。スミタ―の野生の美が眩しい。

Persuation (USA/2022)をNTFLXで。 

黒星スタート。観たいと思っていたものがオンラインで見つかって意気揚々と再生ボタンを押したら、Subtitles表示なのに字幕なし。ガッカリして日本語字幕付きの適当なものに流れた。邦題は「説得」で、ジェーン・オースティンの同名小説の映画化。保守的な社会の中で両家の子女が恋愛という幻想に人生の全てを支配されて悶々とするという世界。「ブリジャートン家」に続き、本作もまた19世紀英国上流階級の社交界の人士をアフリカ系やアジア系が演じている。「ブリジャートン家」の独創的実験だと思ったものが、実はもうハリウッドではノームになっているということなのか。時代劇でこれをやるというのは、限りなく映画が舞台に近づいているということなのか。ただ本作に関しては陳腐だし、人種を問わず主要登場人物の顔が良くない。例外的に親戚の娘役のニア・トールは非常に良かった。金のために何でもする男の役でのヘンリー・ゴールディング(マレーシア系華人)も印象に残った。皮肉屋のヒロインのキャラクターは最初は興味深かったが、途中から典型的なジェーン・オースティンになってしまった。

大晦日の映画見終わりまではベストは決められんと思ってたから保留だったけど、2022のベストが確定した。 

Joji (Malayalam/2021)
K.G.F.2 (Kannada/2022)
Vikram (Tamil/2022)
RRR (Telugu/2022)
Garuda Gamana Vrishabha Vahana (Kannada/2021)
Vendhu Thanindhathu Kaadu Part I: The Kindling (Tamil/2022)
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)
Kantara (Kannada/2022)
Chhello Show (Gujarati/2021)
Natchathiram Nagargiradhu (Tamil/2022)

Sita Ramam (Telugu/2022)をNTFLXで。 

その後レビューを漁ったりして、本作監督がAndala Rakshasi(2012)のハヌ・ラーガヴァプーディだと知り、ちょっと待て!となった。全体的に夢の中のようなフワフワとした雰囲気はARと確かに似ている。ただ、Sita Ramamを見て感じたのは、カシミールとハイダラーバードのニザーム宮廷、どちらも映像作家が良く知らない世界なのではないかということ。ニザームの末裔の浮世離れした貴族性とか、カシミールの「いいムスリムと悪いムスリム」の違いがはっきりしない曖昧さとか、そういったものを肌で知ることなく想像で適当に作ってしまった感がぬぐえない。ラーガヴァプーディはテランガーナ人ではあるものの、AP寄りの地域の出生で、ハイダラーバード文化にそれほど造詣が深いとも思えないのだがどうなのか。一般レビューでオスマン・トルコの帝室からニザーム宮廷に嫁いだNilufer Hanımsultanがモデルなどと書かれていたが、根拠薄弱で問題外だった。

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Sita Ramam (Telugu/2022)をNTFLXで。 

御曹司ものではないので、オフビートなロマンスなのだろうけど、妙に評判が良いのが気になって。純愛に印パ愛国モチーフを絡めたフェアリーテイル。御伽噺なのでパキスタン人がテルグ語を話すとかそういうところはいいんだけど、紛争地帯でのエピソードが全体的に雑なのが気になった(シーターは何をしにシュリーナガルの寒村に来ていたのか、高位軍人の孫であるワヒーダーがテロリストが潜む寒村にいたのは何故なのか、傲慢な上官クリシュナが途中でラームに好意的に振る舞う理由)。カシミールに浸透するムジャヒッディーン討伐の過程でラームは村人を救い英雄となる。沢山のファンレターの中で彼の妻を名乗る女性のものが気になり、ハイダラーバードまで会いに行って二人は恋仲になる。シーターという名の彼女は実際にはニザームの家の王女だったが彼は知らない。彼はLOCを超えてテロの首魁を殺すサージカル・ストライクを行い成功するが幼い女児を救うために逃げ遅れて処刑される。テルグ語映画でニザームへの言及がある珍しい例。入り組んで忙しいストーリーに頭が疲れた。スマントの無駄遣いに涙。

Godse (Telugu/2022)をNTFLXで。 

警察特殊部隊の女性捜査官がヒーロー仕草で登場して期待を持たせる。冒頭の立籠り事件での彼女の説得工作は乱暴な後方支援のせいで失敗し、人質の妊婦は殺される。一旦は辞職した彼女は財界人などを誘拐した犯人から交渉相手として指名される。ゴードセーと名乗る男はビデオ通話で次々と閣僚や実業家を呼び出させ、その過程でランダムに一部の人質を殺す。ここまでは大変よかった。しかしその後の長大な回想シーンは大ブレーキ。最終的には犯人もろとものNGK的結末。無職の大卒問題と政府・警察の腐敗、処方箋は愛国と暴力革命と復讐との大雑把なミックス。お約束のカメラを正面から見据えた長々しい演説。退職した元裁判長というのをわざわざ呼び出して「手段は他にあったろうが、君のやったことは社会のためになった」と言わせて敬礼までさせる。ファクション映画ならいいのだが、国のシステムを問題視しているテーマだてでこのあたりは問題含み。アジトでゴードセーのため働く男たちは何者かとか、英国帰りの富豪がビジネススーツに白ソックス(ボトムズが寸足らず)とは何だとか、解明されない謎は幾つかある。

Gargi (Tamil/2022)をオンラインで。ただしテルグ語吹き替え版。 

タミル・テルグ・カンナダマルチリンガル。画面に映る文字は全てテルグ語、舞台はハイダラーバードということになっている。空撮俯瞰ショットで映るのもHYD高裁。町並みは特定しにくいように作り込まれている。9歳の女児へのギャングレイプ事件の従犯として逮捕された老齢の父。警察は解決を急ぎ勇み足、弁護士会は弁護を拒み、被害者の親族は殺意すら示し、どこからか漏れた個人情報をもとに騒ぎ立てるマスコミ。父の無実を信じるヒロインは、頼りない新米弁護士と共に法廷闘争に臨む。警察の杜撰さが露わになり、被害者の証言の信憑性にも疑わしさが見えてくる。奇跡の逆転劇になるかと思ったら結末でまさかのどんでん返し。作劇としては上手いのだが、じゃあ覆って突き付けられた現実とヒロインがどう向きあったか、どう立ち直ったかが描かれないと画竜点睛を欠くと感じられた。それとアイシュワリヤー・ラクシュミがわざわざカメオで演じてるジャーナリストは、父の個人情報を暴露した当事者であるようなのだが、それについてはちょろっと疑問の言葉を口にしただけなのは気になった。

インド映画のマルチリンガル化でいいことがあるとしたら、雑にボリウッドと言ってもウッド警察にぎゃあぎゃあ言われなくなることかも。

Vaashi (Malayalam/2022)をNTFLXで。 

タイトルの意味はstubbornだという。法曹界で働く若い男女が仲間同士からやがて恋仲になる。異宗教婚だがそこは民度の高い家族に恵まれて何とかなる。婚約するまでにはお互いの心を言葉で打ち明けない中での以心伝心の機微があり、胸キュンのエピソードなのだが、後からそれがブーメランで返って来る。2人は検察側と被告側弁護人として法廷で対決する。はっきりと告白せずに性交した若いカップルのうち、女性が結婚を求め、男性がそれを拒否したことでの争い。「性交したら結婚しなければならない」という暗黙の前提の下で戦われる舌戦。女側に検事の夫、被告の男側に弁護士の妻がつく。白熱した論戦は非常に面白い。法廷で思わず直接やりとりをして裁判長にたしなめられるシーンも。法廷に私情を持ち込むことを戒めるあまり必要以上に激しく対立し、私生活の方にそれを持ち込んでぎすぎすしてしまう。多少の波乱はありつつも、概ね順当な判決が出て、夫側が勝ち、初めてゆったり話をする2人。人の心にまつわる事件での判決の相対性を暗示して話は終わる。現地レビューは厳しいものが多く、驚いた。

Darlings (Hindi/2022)をNTFLXで。オリジナル映画。低品質日本語字幕付き。 

ムンバイの庶民的な地区で暮らすムスリムの夫婦。夫はインド鉄道勤務の公務員だが、実質的には上司の用務員でフラストレーションを溜めており、それを飲酒と妻への嗜虐的ハラスメントで晴らしている。妻はそれを耐え、飲酒癖さえなければいい人間で、自分を愛しているからつい吐け口にしてしまうのだと言い、周囲の諫言に耳を貸さない。これが前半延々と続き、VRとAB両方の演技が迫真的なのでいたたまれないきもちになる。ローシャン・マーチュはこういうドラマにありがちな不思議キャラ。後半で妻が反撃に転じる場面は小気味いいが、最終的には悪者は力で排除していいという伝統的な結論に至る。アーリヤーの典型的なDV被害者の隷属心理の描写が怖すぎる。特に母親に向かって「ママは愛されてなかったからパパに逃げられた。でも私は暴力を振るわれても愛されてることが分かってる」などと言うあたり。昔世間で絶賛されてたので読んだ『自虐の詩』がさっぱりダメだったのを思い出したが、あの漫画の居たたまれなさが本作で解消したかというとそんなことはなかった。

Njandukalude Nattil Oridavela (Malayalam/2017) をDVDで。 

タイトルの意味はAn Intermission In the Land of Crabsだそうだが、何のことだかわからない。アイシュワリヤ・ラクシュミのデビュー作というので見てみた群像劇。癌が見つかってしまった女性とその家族をめぐる、マラヤーラム語映画からしか生まれないタイプのファミリー・コメディー。客寄せの主役はニヴィンで実際に登場シーンも多いが、作品全体を支配するということはない(1カ所自己言及の受け狙い台詞があったが、これもお笑い)。Ley’sのポテトチップスが大好きな、凄くその辺にいそうなだらしない奴という役柄で好演。がっかりする女性ファンの気持ちを思うと心が温まる。大学講師をしている中年女性が乳癌の第二段階にあると分かってから周囲が動揺するが、女性自身は基本的に強い人で、周りのあれこれドタバタが炙り出されるという筋書き。実際にこういうクリスチャンの中産階級家庭を知っているので、リアリティーに震えた。深刻な病にかかった親族がいる時に、人間はどのように自身の日常を楽しめるか。

777 Charlie (Kannada/2022)をオンラインで。 

英語字幕は低品質。雌犬なのにheと訳してたり、イドリをなぜかItalianとしてたり。幼少期のトラウマからすさんだ心を持ち続け孤独に暮らす男が、迷い込んだ雌犬に付きまとわれて往生するが、犬が交通事故で怪我をした際には見捨てられずに獣医にかからせる。そこから実質的な飼い主となり、やがて心が通じ合うようになるが、気が付いた時には犬は末期癌だった。犬が憧れている雪を体験させるためにマイソールからはるかにヒマーチャルを目指すという話。淡々とお約束通りに進むメロドラマ。泣き面の犬の演技力が怖いほど。しかし見る人によっては思い込みの強い人間が動物を弄んでいると感じるシーンもあるのではないか。これは看板になっている動物(愛護)映画ではなく、ACとして成人してしまった人間が、動物の献身と犠牲によって何とか世界と折り合いをつけられるようになるまでを描いたものなのではないかと思える。ハラハラさせる行動をとるのは犬ではなくいつもダルマの方だし。そして道行く先で出会う違法ブリーダー以外の全ての人間が、主人公の苦しみを察して特別扱いをするのだ。

Comali (Tamil/2019)をオンラインで。 

ジェヤム・ラヴィを見る作戦の一環。本作は公開前にトレーラーが物議をかもして(何でだったっけ?)わざわざ保存した記憶まで。1999年大晦日に事故で植物状態になった高校生が16年後に目覚めるというコメディー。前世紀の遺物の34歳の男が現代社会(特にそのヴァーチャル性)を批判するという設定は大変に興味深いが、周りの人間の設定が無理筋過ぎて笑いの鋭さを大いに削いだ。特に最終シーンで主人公が人助けをするところ、感動的に盛り上げてるが、そもそも災難のきっかけを主人公が作ってるという点が痛い。ギャング出身政治家とドクラ(東インドの工芸品だろうに)の関係も雑。笑ったのは、ラジニの政界入り関連のニュースを見た主人公が、「ほら今は1999年じゃん」という場面。低カーストの生まれでかつては寺院にも入れなかった政治家が、自分はテーヴァルだということにしてムットゥラーマリンガ・テーヴァルの像の除幕式に出るところ。ダヌシュは自分の息子だと訴える女性が、「タミルあるある」だとして登場するなど。主人公がユーチューバーになるシーンでは古臭いモラルの開陳が鼻についた。

Jayam (Tamil/2003)をDVDで。 

ジェヤム・ラヴィの出演作を多少は見ようというプロジェクト開始。今から約20年前ということで、さすがに古い作劇(しかしそれが心地よいのだ)。ニティン主演のテルグ映画のリメイク。よくある田舎カレッジでの一目惚れ~ストーキング~相思相愛~親の反対~恋敵が鬼畜~駆け落ち~恋敵との肉弾戦、という流れ。公開当時に見てたら荒唐無稽の一言で片づけていただろうけど、これは逆毛異カースト恋愛もので、それなりに現実を反映したものだったことが今は分かる。クライマックス前にムルガン神に祈るシーンがあって、神懸かった方に行くのかとも思ったが、主人公がムルガンの槍を手に戦うというのに留まった。鐵分は高く、ポッラーッチ線やテンカーシ線などでロケしている模様。屋外風景も多分ポッラーッチ。ご都合主義と人物の性格や感情の動きの描写における極度の様式化、物理法則無視などが満載ではあるが(というかそれだからこそ)、90年代田舎映画の名残りを留めた純朴と瑞々しさが感じられる。ジェヤム・ラヴィはいかにもな坊ちゃんぶりで、田舎の学生には見えないけど、リアリズムの時代ではなかったのだ。

Ariyippu (Malayalam/2022)をNTFLXで。 

また脳みその疲れる映画を観てしまい、ストーリーを理解するため、後から再度飛ばし見&レビューを読んでやっと理解。珍しいことにケーララからデリーに出稼ぎに来て陰鬱な郊外のビニール手袋工場で働く夫婦。コロナ禍だが必需品なので稼働している。外国に出るためのビザ待ちにはデリーの方が有利だからだ。工場内での検査体制の不正と、妻の映ったビデオが加工されてアダルトものとしてSNSに流出するという2つの事件が並行し、翻弄された夫婦の間に亀裂が生じて夫の側の有害な男性性が炙り出されるという物語。まず要となるビデオのどこが問題なのか分かるのに時間がかかった。私物持ち込み厳禁の工場内でスキルビデオを撮った(たぶん夫の手で)ことが騒動の元なのかと勘違いしてあらぬ方向へ(アダルトであるというのが微妙な描写で分からなかった)。品質管理を巡る汚職の描き方も分かりにくい。ただ、自殺した元職員の村の描写だけは鮮烈で心に突き刺さった。Nna Thaan Case Koduといい、本作といい、クンチャッコー君が演技者として注目を浴びるのは嬉しいが複雑な気分も。

Axone (Hindi/2019)をTUFSシネマで。 

邦題は「アクニ デリーの香るアパート」。レクチャー付き。デリーに住む北東部出身の男女の一日を描く。ほとんどのやり取りがヒンディー語か英語であるのは、彼らの間で意思の疎通可能な現地語がないため。そのうちの1人の女性が急遽結婚することになった(健康状態が思わしくない祖母のたっての願いで)が、その日はIAS試験の面接日でもあった。不安から電話で哀訴する彼女を励ましながら友人たちが婚礼のご馳走を作るために奮闘するが、アクニという発酵大豆の味噌が強烈な臭いを発するため、料理をすることができない。そのドタバタの中で、カジュアル・レイシズム、くっついたり離れたりの恋愛、親友と思ってた相手の真の顔の暴露などなどが起きる。深刻なテーマも扱いながらもChennai 600028を思わせるご当地物の軽みとローカル色がいい。女性が前面に出ているというのも。名誉シク教徒北東人とか、デリー生まれ「インド人」だけど北東人フェチの男とか、グロサリーショップ前のパイプの男がアーディル・フサインだとは。チャンビのベンダンへの諫言の不適切さは尤もで、これはかなり痛い。

Don (Tamil/2022)をNTFLXで。 

もう二度と見ないつもりでいたのに、事情あって再見。劇場初見で字幕が追いきれなかったところは少し解明したが、安いものを見せられたという感想は相変わらず。特にブーミナーダンのキャラの突然の変貌は意味が解らない。打ち所が悪くて突然いい人になったという解釈しかできないが、シリアスになる展開の中でそれはないだろう感が満載。ブーミナーダンと父のキャラクターをパラレルに並べて語ることを意図したからなんだろうが、単なる思い付きの範囲を出ず、効果がない。専制的に振る舞う父親が実は慈愛に溢れながらも不器用でそれを表現できないというパターンは、Ozhimuriでもあったが、本作でのそれは後だしジャンケンが過ぎる。親に行き先を決められて窒息する子供の悲哀と、身を粉にして働き子供に教育を受けさせようとする親の犠牲、それに規律ばかりを求める硬直した教育、3つの相容れないテーマのコンフリクトは、父の死と主人公のとんとん拍子の成功によって棚上げされてしまい、本質的な解決を見ないままにセンチメンタルな洪水によってあいまいにされて終わる。演技が素晴らしくても後味は良くない。

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