Sardar(Tamil/2022)をイオンシネマ市川妙典で。
7割程度の客の入り。国防アドバイザーの重要人物を殺害した裏切り者の諜報部員の息子が、警察官になり、街頭示威行動へのスマートな対応などで街の人気者となる。実はその国防アドバイザーの方が裏切り者で、その巨大陰謀は現在まで続いていた。バングラデシュのチッタゴン刑務所に収監されて生き延びていた父と息子とが最後には力を合わせて陰謀を葬る。分かりにくすぎるプロットの連続。ペットボトルの容器の汚染と、亜大陸全体の給水システムとの関係がよく分からない。それと、そんなに致命的な物/人ならさっさと消しておけよ、という「お間ぬ系悪役」なプロットが多すぎて、字幕からまともにロジックを追う気が失せる。カールティのファンとしては1人2役で二倍楽しめるのでいいのだろうが、純スリラーとしてはループホールとご都合主義が多すぎ。バングラデシュやパキスタンとタミルナードゥの距離感も無茶苦茶。隠れ諜報員の父親が普段は村芝居の役者という設定も凄いが、そこでやっているのがムルガンとヴァッリの恋物語で、父シヴァクマールとカールティの命名と両方への言及であるのは良かった。
Prince(Tamil/2022)をイオンシネマ市川妙典で。
客入りは半分以下。SKクオリティーには期待してなかったが、唖然とするほどの低劣な出来。これほど低レベルのディーパーヴァリ作品は初めて。ポンディシェリが舞台で、主人公は社会科教師。父は土地の衆に信望のあるプチ名士。リベラルな父は、息子に異カースト・異宗教の相手と結婚させようと考えている。思惑通り息子は英語教師のジェシカと恋仲になる。しかし彼女は英国人。父の祖父は独立運動闘士で英国人に殺された。したがって英国人の嫁だけは認められない。息子は村の衆を巻き込み、「ヒューマニティーかパトリオティズムか」の論争を繰り広げる。bottle gourdの意味がわからず知ったかぶりする長々しいギャグとか、ケンブリッジがフランスにあると思い込む無知とか、咀嚼できないユーモアの嵐。Jathi Ratnaluの監督だが、同作を見た時は、よく理解できないお笑い世界ながら、何か楽しそうな雰囲気を評価してたんだよな。低能ギャグでも使いどころを間違えなければ楽しめるはずだが。ポンディシェリという設定で出てきたトランキバールの景色に郷愁がかき立てられた。
Kantara (Kannada/2022)をイオンシネマ市川妙典で。
157席の8割以上が埋まっていた。字幕の出来はかなり悪く、また完成動画が支給されていない状態でつけられた感じ。従って理解度は低い。しかしストーリーはかなりシンプル。19世紀半ばに在地の王と森の神との間で交わされた協約によって部族民に下賜された土地を、1970年代になり王の子孫が取り戻そうとして神罰で死ぬ。その際に神の預言をしたブータは森に消える。90年代になり、そのブータの息子が成人し、再び対立が起きる。外の世界からやってきた森林行政官が村人を立ち退かせようとした。しかし本当の黒幕は王の末裔の地主。地主は最後に実力で村人の立ち退きを図るが、ブータとなった息子が神的なパワーによって地主を誅し、秩序を取り戻す。最後の憑依による神の怒りが金縛りだと評判になり、あり得ないほどの大ヒット。しかしそこに行くまでの村の日常の描写では、客席からかなりの笑いが起きていた。だけどどうなんだろ、GGVVと比べるとちょっと冷静になってしまう。ラージBシェッティは、あの憑依をメイクなしでやったんだぜと言いたくなる。美麗映像は特筆ものだったが。
Don (Hindi/1978)をDVDで。
行きがかり上の理由で、この際だからと見てみた。♪Khaike Paan Banaraswalは本作のものだったか。断片的な知識がやっとつながった。それから、クライマックスの墓地のシーンで、赤い手帳をパスし合って渡すまいとする長いシーン。どこかでパロディーを先に見てしまっていたけど、何だったか思い出せない(タミル・リメイクか?)。ドンと瓜二つのヴィジャイの登場シーン、Billaのラジニと同じく、口紅・アイラーナー、足鈴などをあしらい、effeminatedな仕上がりになっている。これはやはり当時のお約束だったのか。アミターブのファッション、ジーナトの野良猫ロックな細い眉など、ポップなビジュアルが横溢。これがさらに煮詰まって80年代末には毒キノコ調になっていくのだとわかる。元ギャングのサーカス芸人(なんだそれ、だが)という設定のプラーン、ドンの右腕ナラング役のカマル・カプールなどなど、いい感じの大顔おっさんたちがひしめき合って、ストーリーそっちのけで見とれてしまう。ストーリー展開は緩々でスリラーとしてはポットホールだらけだし。マック・モーハンも。
Ki & Ka (Hindi/2016)をオンラインで。
昨日こってりなものを見てしまったので、何を見ても腑抜けたものに感じられてしまうだろうと思ってたけど、あっさりした食後のデザートのような感じで気持ちよく見られた。いわゆるボリウッドのリベラルの絶好調の頃のもの。今公開したらボイコットに遭ってたかも。車の中で致しちまうとこなどは既に珍しくなかったけれど、妊娠が疑われ、それが杞憂だったと事が分かって大喜びなどという描写は保守派が眉をそばだてたことだろう。実は見ながら心配していたのは、妊娠を機にヒロインが命の尊さに目覚め、主婦に転じて「これが女の幸せ」などという結末になりやしないかということだった。しかしそうはならず、脚光を浴びる仕事とそうではない仕事との間での解決できない相克の方に行くのだった。ただ、逆転はしていても、男女共に担当する分野での能力は最高。それが御伽噺感を出していて、TGIKのような深刻な問題提起にはなっていない理由か。そのせいか、現地のレビューはあまり芳しくない。ヒーローがお洒落な鉄道模型マニアというのも吃驚設定。デリーの国立鉄道博物館がロケ地になっているのは初めて見た。
RRR (Telugu/2022)を新宿ピカデリーで。
監督主演の舞台挨拶回。一握りのテルグ人の行儀が悪かった。やはりNTRの夜の大サーカスはあがる。通し見は4回目だけど、分からないところはまだ分からない。毒蛇に咬まれて瀕死のラームが叩く音、セルに閉じ込められたラームを探すビームの叩く音。あれの伏線はあったっけ?もしかしてNaatu×2のリズムだったっけ。それから何度見てもイギリス人の衣装や室内装飾が気になる。アナクロニズムで1990年代を再現したというならまだ分かるけど、デザインに一貫性がない。英国側の描写の弱さはヒロインのジェニーにも。あの女優をわざわざ抜擢するならエイミー・ジャクソンで良かったじゃん。チャランをやや上手においた構成というのは変わらないが、彼が宝塚の男役に見えて仕方がなかった。特に赤い軍服。一方でNTRは新派の大芝居。それが同居してちゃんと調和しているのが凄い。クライマックスの例のラーマの扮装は、要するにシーターラーマラージュがあそこでコスプレの味を覚えたということなのか。ラーマが蛇に咬まれた時、および足を痛めつけられ独房に入れられた時の、ビームの薬草の驚異の回復力。
近年のインド映画の公開時の映画館の数②
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『王の凱旋』の劇場数は累計で90館程度で、完全版は全国73館で上映する予定です。
『バーフバリ』はテレビスポットも新聞広告も打たず、どちらかというとSNSの口コミで広げていった映画で、あまり宣伝費をかけていません。館数は少なく見えるかもしれませんが、宣伝の規模を考えれば、我々としては妥当だと思ってます。
そもそも、興行収入と館数はあまり関係ないんですよ。逆に館数を増やすと経費がかかるので、独立系配給会社はできるだけ経費をかけずに興行収入を上げようとしているんです。
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それが今度のRRRは200館超とは。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/30/baahubali-twin_a_23446544/
近年のインド映画の公開時の映画館の数①
松竹が鳴り物入りで仕掛けた『チェイス!』が、「その数ざっと100館超」と形容されている。これでかなりの大規模展開だった(そして見事にコケた)。
https://blog.goo.ne.jp/cinemaasia/e/0620a58cf795b63e146053300a3ae65a
RRRの10/21の封切り、
劇場数を数えてみたら、212館にもなり、腰を抜かしている北海道7、東北17、関東75、中部42。関西29、中四国18。九州沖縄24。
https://rrr-movie.jp/
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)をユナイテッド・シネマ、アクアシティお台場で。二回目。
前回は固有名詞の洪水で溺れずについていくのが精いっぱい(少し溺れたか)。今回はコミカライズ原作を読んだりして多少は理論武装したが、はっきりしない点はまだ多い。ヴァンディヤデーヴァンとアールワールカディヤーンの間者としての位置づけとニュアンスがやや曖昧だが、この辺りはストーリーを最後まで見れば分かるのか。後半のスリランカの森でのチェイスのシーン、木を撓ませてから離して騎乗のヴァンディヤデーヴァンを倒すのはKaithiからの引用か。プーングラリとスリランカ沿岸の漁師たちとの関係は何なのか。ヴァーナティもまた小国の王女で、アルルモリとの結婚を期待するのは高望みではなく現実的なのか。ヴァンディヤデーヴァンは割と誰にでも惚れるタイプと見ていいのか。コットラヴァイ信仰をおどろおどろしいもの、パーンディヤ残党の悪役性と結びつけたものとしたのはどうなのか。貴婦人がマントラヴァーディを呼びつけるというのは何なのか。それからやはり地図を作らないと。適当なところまでコミックを読んでから着手する。
Ramayana: The Legend of Prince Rama (English/1993)をYTで。
公式データで135分のものがYTでは128分しかなかった。4kリマスター前のものなので画質は良くないけど、想像力で補える部分はあった。字幕は自動生成だが、固有名詞以外は結構拾う。英語映画(ソング歌詞のみサンスクリット)として製作されたが、後にヒンディー語バージョン、アメリカ人声優を使った米国英語バージョンも作られたという。作画は小林一幸、手掛けたその他の作品も画像検索したが、本作における品格は抜きんでたものに思える。主人公に近いキャラクターほど「脱アニメ絵」的で、若干日本画を思わせる面も。ハヌマーンを始めとする動物はアニメ絵寄りだけど、メインキャラに釣り合った程度のデフォルメ。ストーリーは正調も正調だが、ところどころ戦後平和主義的なものも混じる。戦闘はあるが流血描写はない。ラストはランカー島からの凱旋で終わるが、「数年後にラーマは天に召され、シーターは大地の女神のもとに戻った」というナレーションが被り、寂静の心地がする。ラーマやバラタの肌は青ではなく白。ラーヴァナの造形もよい。
Dhruva (Telugu/2016)をオンラインで。
字幕なし。RCを潰す修行:苦行のラスト一本。まあただ原作のThani Oruvanはすごく面白かった一本だし、字幕なしでも筋立ての概要は分かる。却って休憩なしで見られたぐらいだ。8の字とガウタムの最終メッセージだけは分からなかったけど。それにしても、RCのムキムキマッチョ(しかもそれをこれ見よがしに晒す)は辛いわ。胸板を厚くしても鼻から下の薄さが何とかなるわけじゃなし。原作でのジェヤム・ラヴィはあのもっさりした感じが逆にセクシーだと言われる結果になったんだけど、RCの場合はハード&マッチョな体とお人形さん顔のミスマッチがますます痛い。ストーリーは緊密で、そればかりに目が行かないようにはなってたけど。アラヴィンド・スワーミは何だか眠そうだった。オリジナルの細部を覚えていないけど、こんなにヒーローは全知全能だったっけ?引ったくり団のアジトがゴールコンダの城壁内というのはヴィジュアル的にちょっと良かった。それから密談の場面だったかでチャール・ミナールにわざわざ上っている場面があって、絵としては綺麗だけど何の意味があるのか分からなかった。
Bruce Lee - The Fighter (Telugu/2015)をYTで。
珍しく上映会を見のがした一本。ポスターの印象から、また例によってRCが泣き面で復讐するだけの話かと思ったら違った。なんたってシュリーニ・ヴァイトラ。2時間半をフルに使ってのトンチキなアクション・コメディー。RCは本格的コメディーは初めてか。映画界の下積みとしてのスタントマンという設定。古いスタイルのテルグ映画らしく、ヒロイン、悪役、コメディアン、いずれもが多重セッティング。特にコメディアンはインターミッション後になってからポーサーニ、ブラフミー、アリーなどを投入するというシュリーニ節。全部で10人ぐらい出てきたか。そしてコメディアンがふざけ散らかす前で悪役がリアクションに困って固まるのを構わず撮るという昔の作法でガンガンに進む。そしてラストの絶体絶命ピンチ(体は一つ系)に親父チランジーヴィがStyleと同じやり方で投入される。ハイダラーバードでドンパチやってたらいつの間にか公海でのボートアクションになってたりで後半に行くほど加速する。身分詐称の落とし前をつける部分はもう少し捻りを効かせられたらと思った。
Zanjeer (Hindi/2013)をオンラインで。
多分見ることはないと思っていたものを行きがかり上見てしまった。色々メタメタで、ヒンディー語版だけでなくテルグ語吹き替え版も全方位から批判されて撃沈されたのも頷ける。監督のアプールヴァ・ラーキヤーは全然知らないけど、のこのこ出てきた田舎者のラームチャランを鴨って評判をガタ落ちにさせようとしたんじゃないかとすら思える。プリヤンカ―やサンジュなどギャラの高い俳優を揃えることで徒に製作費を高騰させ、他は思い切り手を抜いたものに見える。オープニングからいきなり下品なアイテムダンス。チャランはベッドシーンまでやってた。原作から40年経った現在の皮相な部分のみをアップデートした、魂のこもらないリメイク。精力減退に悩むオイルマフィアのテージャはカリカチュアみたいだ。原作のバッチャンは演技が下手でも立ってるだけで絵になったが、逆にチャランは誠実に演技しようと努めているにもかかわらず絵として全然ダメ。唯一面白かったのはギャングの作業場のスラムを火の海にするシーンだけど、スラム破壊というのは別の意味で今日的にヤバいというのに思い至らなかったのだろうか。
Zanjeer (Hindi/1973)をオンラインで。
歌詞のみ字幕なし。40年後のリメイクを見る必要ができ、それもなるべく早く見なければならないのだが、初見がヘタレなのは嫌なのでこれを先に。2時間25分を一気見。格子窓とカーテンの比喩は面白かった。バッチャンの演技は上手くない。ただ、立ってるだけで絵になる男だったのはよく分かる。圧巻はプラーン。あまり丁寧なキャラクター造形がされていないにもかかわらず、そのデカい顔で魅了する。「怒れる若者」映画の嚆矢で、この脚本は当時のボリウッドのロマンチック・ヒーローたちに軒並み断られたのだそうだ。幼時の惨劇のトラウマから最終的な復讐まで、今日のテルグなどの定型的な暴力映画のエッセンスの全てがある。ソングはパシュトゥーン風宴会ソングYaari Hai Imaan Mera, Yaar Meri Zindagiがダントツ。an influence of the Pashtun instrument rubab, and is danced to by men in the attan style.だそうだ。https://en.wikipedia.org/wiki/Pathans_in_India
Racha (Telugu/2012)をDVDで。
チャラン出演作全潰しの一環で。懐かしい感じのするテルグの満漢全席。親父作品からの引用、自分の過去作からの引用、お色気、出づっぱりコメディアン軍団のお笑い(中にはPCで警報が鳴るレベルのものもあり)、過去の因縁と復讐、激悪のヴィラン、合掌して最敬礼する村人たち、何をやっても常勝のヒーロー像、ヒーローを引き立てるための百人超の群舞、素手・棒術・火器・巨大刃物での趣向を凝らした格闘、霊験あらたかな護符、女神の加護、インターミッションでのひっくり返しなどなど、手際よく盛りつけた大皿。この時チャランは27歳ぐらい、デビューから4作目。ともかく、テルグのスター俳優たるもの、優しい女顔でスリムというだけじゃダメで、デュエットでは男臭さを、格闘では殺気を帯びなければならない。前者はダンススキルでカバーもできるけど、後者に関しては持って生まれた素質に左右される。三白眼にしてみるだけじゃ神気は立ち上がらないのだ。その辺りでまだもがいている感じと、口角の上げ具合&顎の突き出し具合とが、やはり見ていて痛い感じがある。お膳立ての上で期待に応えようと必死な様子。
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)がなぜそんなに良かったかというと、
ただもうカラリとしているからなんだと思う。近世以前のタミルの爽やかで闊達な空気感。どろどろした人間関係や凄惨な戦闘の描写はあるが、カールティのキャラクターがそれら瘴気をすべて浄化してしまう。キン肉マンショーをする男がほぼいないのも画面の清澄さの理由。翻って最近のヒンドゥー教絡みのファンタジー小説(特にAmish Tripathiのもの)はなぜああもドス黒い色味を強調し、ボディービルダーが正面に描かれるビジュアルに走るのか、そして映画でもそれと同じ路線に走ったものが多数。あれが正調となってしまったら嫌だ。
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)をユナイテッド・シネマ、アクアシティお台場で。
612席の巨大スクリーンが満席で95%がインド人。マニ・ラトナムに対してはクールに構えるようになってからずいぶん経つが、どういう訳か本作には見る前から大興奮。空前のスターキャストのせいもある。蓋を開ければ、ストーリーは水のように薄いのに新鮮な感動があった。SLB何するもんじゃい、SSR君露払いご苦労じゃ、ってな風格と軽みが共存。神懸かったところのないドラヴィダ民族主義的歴史ロマン。タイトルロールはジェヤム・ラヴィだが実質の主役はカールティ。「カールティ君の大冒険」的な諸国遊行譚にも読める。アイシュとトリシャはもっとビシバシと戦ってほしかった。タミルの戦士はもっと花で美々しく飾り立てて欲しかった。何でこんなに後味がいいかというとあれだ、ムキムキ誇示マンが出てないからだ。エンドロールも興味深く、ナスリーン・ムンニ・カビールが字幕翻訳の筆頭だとか、ビジョーイ・ナンビヤールがセカンドユニットの監督をしてるとか、いちいち驚き。予習は不真面目にしかしていかったので最終シーンで驚くことができた。