『22年目の告白-私が殺人犯です-』
アバンタイトルが凄く良い。被害者の前で、これでもかと人間の首を絞めつけて絞殺するのを見せ付けたい執念に駆られてるのは面白い。サイコパスの造形は興味深く、後半そいつの腹の中に飛び込んでいく気味の悪さ。
中盤の生放送が長すぎる。退屈っていうよりも、この場面を維持して引き伸ばされていく感覚が辛い。あと、暴かれるタイミング・ココで明かすのは軽率で、致命的。自分からホイホイ説明したがるのも関心しなかった。結果的に、ハメる事には成功してるが、打算的ではない。当てずっぽうだ。
冒頭空撮から、階段を降りるアクションとか、過去回想での追いかけっことか、そういった身体を動かしたアクションの見栄え、行動を全体で捉える視野の広さは良のに、後半ドンドン内向きになって、狭い空間で粘着質な演説を始めてしまうのが、つまらない。
過去の絞殺映像と、過去に起きた阪神・淡路大震災、この二つの古い記憶を呼応させたのは巧い。絞殺を捉えたフィルム映像のハッキリと映らない暗い映像と、震災と共に起きた火災を捉えた映像は同一の災厄。とても過去を直視できない。でも、直視しなければならない。
昼顔
ホテルでの痴情のもつれはニヤニヤさせられた。ニヤニヤしたが、よくあるドロドロしたドラマのやり口で、ベタだと途中で気付いた。但し、もつれの契機になる大音量クラクションが響く瞬間は、観客にも秘密がバレた時の終わった感情を喚起させられた。二人も、観客も浮かれてたから余計に響く。
上戸彩と平山浩行が横に並んで、訳ありで東京からココへ来たたという話の場面。平山浩行は飲み物に毒を盛って人殺しをしたからココに居るという事を真剣に言うと、上戸彩が相手の冗談に気付いてグラス一杯を飲み干す動作をする。相手の毒をも全部飲み込んでしまうような、でも不穏な余韻も残されるような。
平山浩行とのエピソードは憎み合いで終わらず、祭りと共に終わるのは良かった。本当に憎まないで良かった。
『昼顔』
傑作。ホタルの緑色の発光をアレで擬似的に表現されて、その幻影の光に惹かれてしまうが、然しそれは間違いだという事を、アレの発光の変化で提示する。アレの選択が優れており、全編に散りばめてる“ホタル”のイメージにバッチリ合ってて慧眼だ。上戸彩が生にしがみつく為に、よじ登るのが熱い。上戸彩のよじ登る所、音楽でもかなり盛り上げていて、なんだか『ダークナイト ライジング』のデシデシバサラバサラデシが流れても違和感ないと思う(違和感)。
三宅隆太氏が言ってた“蟹と修造”理論の映画とも言える。不倫をして片割れを獲っていく側と、不倫をされて片割れを獲られてしまう側の、二者の対立。獲られた側は、外的・内的両面で損傷を負う。外的損傷は治療の余地が残されるが、内的損傷は深く抉られ傷跡が永遠に残り続けて、心身を呪う。
エレベーターが開かれる瞬間の、本来なら祝ってもいい状態を、おどろおどろしさの方が先に立っているという状態は凄い。後で語られる、その状態を作り出した真意が分かり始めると只事ではなくなり、追い込み方が尋常じゃない。追い詰められ、憎悪に駆られ、気が触れた人間の出る、正統ホラー。
『ローガン』アクション面に関して
冒頭夜間でのハイヤーを守るアクションも、接写が多過ぎて見辛いタイプの画面の切り取り方・編集で、下手な印象。序盤は暫く、しみったれた人物紹介を長々と見せられて、早くもコレは駄目と心配させられた。然し、ダフネ・キーンちゃんが登場してから筆が乗り始めて面白い。ただ、ボール遊びをしているダフネ・キーンちゃん初登場のショットが短くて、そこはもっと興味を引くように長めにして、見所として機能させて欲しかった。
白眉なのが、本格的に追っ手との戦闘、ダフネ・キーンちゃんの正体が露わになり敵を皆殺し、オマケにカーチェイスが一斉に繰り広げられるシークエンス。もう最高オブ最高。列車と追っ手の車両が同じ画面に収まって、疾走している画が最高。血湧き肉躍る瞬間に富んでいた。
クライマックスの戦闘シーンがイマイチで、ロケーションとか余り画面映えしない。場所に因果性が無いのも難点。空間を最大限利用する感じでは無い。一対一のアクションも見通しが悪くて、R15仕様のカギ爪アクションも繰り返すと飽きる。但しロケーションは、ラストカットが美しいので完全には否定しない。
『ローガン』ダフネ・キーンが素晴らしい
この少女の起用によって評価が底上げしている。もっとスクリーンで観たい。目力が異様にあるキリッとした鋭い目線で、かなり映画に向いている。凛々しくカッコいいが、子供の無邪気さも残っていて尚愛おしい。母性を感じさせる場面もあり、完全無欠。
この子が出るたびに5億点を連発し過ぎてコレはヤバイ。R15である長所を少女に向けて撃ち込むのが、エグいながらも紛うことなき魅力になっている。唸り声をあげながら、悪漢を切り裂き、滅多刺しにする姿に惚れ惚れする。血飛沫を浴びながら闘う少女キャラの金字塔。
痴呆ジジイと、中年オッサンと、切り裂き少女という取りわせ方が良い。食事を囲むシーンの幸福さ、擬似家族物としてグッとくる。食器の使い方が覚束無いままに、モリモリと飯を食うダフネ・キーンが愛おしい。コーンフレークを買ってあげたいわ。
ヒュー・ジャックマンがウルヴァリンを引退する作品という印象よりも、ダフネ・キーンの存在を世界中に広く知らしめた印象と功績の方が強い。
『夜に生きる』エル・ファニング最高
エル・ファニングが素晴らしい、神がかっていた。端正で美しい聖母なのに、どうしようもないくらいにドス黒いバックボーンを抱えている。聖痕を見せるタイミングも洗練されており、彼女の演説シーンの強烈な説得力と、グロテスクさが際立っている。登場時間は短いのに、後を引く。事の顛末を陰惨な暴力に帰結するのも、主人公を追い込む事に直結して煉獄。
過去の女、現在の女、聖母のような女と、主人公をサンドイッチにするよう女性を配置しているのが面白い。聖母の影響下にある“白”は特に強力で、終盤に会談へと向かう主人公は白スーツに包み込まれていて、聖母の加護が宿っている。この白スーツがベン・アフレックにとっては、絶妙に不恰好で窮屈そうで、逆にイイ。彼に“白”は似合わない。
まぁバットマンだし、やっぱ黒じゃん。
『夜に生きる』スゲー面白い。
陰と陽の組み合わせの仕方が絶妙。特に終盤のシナリオ構成が上手い。陰惨なものと、陽気で美しい場面とを交互に見せていく事で、主人公は魔の手からは逃れられない事を強調する。でも微かに救いも用意されていて、そこが唐突な分もあり感動。だが、戦争の匂いも残すバランスで上手い。陽に行き過ぎないで、陰もチラつかせる。
ワーナーのロゴマークの重々しい登場の仕方と、そのデザインがカッコイイ。配給ロゴと制作会社から法悦。
唐突に挟み込まれる陰惨な殺人と襲撃の応酬が、妙な味わいを醸し出す。一瞬しか登場しない女殺し屋が、華麗にナイフで刺殺した後に見せる笑顔よ。お話の運び方が必ずしもスムーズとは見受けられないのに、妙に殺しや破壊が目立って逆に面白い事に。キチガイKKKの襲撃場面とか、強烈。
銃撃シーン上手かった。上下の高低差の撃ち合いとか、螺旋階段からぶち落としてからの乱射オーバーキルとか、サラッと相手の後ろに回り込むとか、壁越し射撃のスプラッターさとか、あと同一画面内で撃ち合うのが良いよねホント。ペラペラ喋らせないで射殺する低温演出と、グラスに一滴の血。
満足度高い。
美しい星 その4
そしてその道中にこそリアリティがあった。地球温暖化という地球規模の現象よりも、都心を走り次々と通過していく夜の街に美しさを、行き交う人々に美徳を見出す。躍起になって地べたから、実際に見えもしない地球を救いたかった。一番美しい筈の地球よりも、何でこんな近い所に呆気なく、地球とは関係ない場所に、浮ついているが美しい光に溢れていた。そこに一番リアリティがあった。
地球規模の問題よりも、眼前に広がる夜の街にこそリアリティを感じてしまう。
そして肉体のくびきから解放された父親のような者は、UFOの大きな窓=画面から宇宙から地球を覗いてみる。あそこまで美しい巨大なブルーが眼前にあるのに、探してでも一番見たかったのはポツンと突っ立っている集団。あぁ、グッタリしている血色の悪い人間がいるね、それを皆が支えてるね、あの集団が綺麗だな、美しいな、あれが家庭なんだね。
大きな大きな容れ物の中に、遠い遠いところから、やっと覗けた、美しい星たち。