LION ライオン 25年目のただいま
タスマニアきれいきれい映画。いや、インドロケもきれいだったですけど... ルーニー・マーラとニコール・キッドマンを使ってこれ?!というぬるさがありましたが、のんびりぼんやりいい話を観るんだったらまあ...
ちびサル―は愛らしいし、兄ちゃん信じられないくらい優しい。その優しさが仇になっちゃうんだけど。大人サル―が急に血のつながった家族を探さなきゃ!ってなる流れ、心の温かいひとには当然のシーンなのかもしれないけど、そこで一人でぼそぼそ検索してノイローゼ気味になりルーニー・マーラに八つ当たりっていうのがどうしてもピンとこなくて、なんか自分のことばっかりの人だな、と感じてしまった。あと、育ての母にそこまで(尺的に)気を遣うのもちょっと...世の育ての母への配慮なのだろうか...と。わたし向きじゃなかったです。
しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス
まあふたりがいいならいいんだけどさーというような話なのだけれども、ここぞというときに先手を打つのはいつもモードで、「おーうまいこと制御しとる」と感心した。Bad girls go everywhereな魂。モードは「わたしは多くを望みません」と言ってはいたものの、数少ない欲しいものは全部手に入れててよかったです。一生を通じて下手にでないのがよかった。
エヴェレットみたいな男を愛の力で変える手間かける必要あんの? と思いましたが、まあふたりがいいならいいということで。愛の力で男が変わるってある種の夢なんだろう。モードはぜんぜん変わらなくて、それでよしとされているのにね。
情婦
いがみ合っていた二人が最後に仲良く去っていくところでなぜか涙ぐんでしまった。それなりに緊張していたみたい。でもあちらこちらにふふっと笑える仕掛けがあって、これはビリー・ワイルダー風味ということなのだろうか。リフトに乗ってよろこんじゃう弁護士先生がめちゃめちゃキュートです。
法廷ものは緊張するけど面白い、物事の輪郭がはっきりしていく快感があった。どきどき感は『女神の見えざる手』を連想した(ぜんぜん違うだろ、というご批判は受けます。連想しちゃったんだもの)。最後に「ネタバレしないでね!」ってお願いが出てくるのでこれ以上は書きませんが、長くないし面白いよ。結末までぐるぐるひねりがあるし。
ディートリヒが日出郎みたいで、うーんもうちょっときれいにメイクしてあげて?という気持ちにはなった。でもこの映画だと完璧美女じゃ違うんだろうね。
道
うつくしい胸糞映画。どこかで共依存映画といわれているのを聞いたのだけど、どっちかというと社会的弱者の困難映画。性産業で働く知的障害者や少年院でケーキを等分に切れない受刑者たちの事例を連想した。
DVDのおまけの淀川先生の解説を観たんだけど、公開当時は「男のわがまま」「女の忠実」って解釈がされていたんだね... 綱渡り芸人はどうしてジェルソミーナをザンパノのほうに誘導したのかな。製作当時はそれがうつくしかったんだろうか。知的障害者をコンテンツにして消費してるのとどう違うのかな。最期まで見入ってしまう映画ではあるんだけど。
個人的には、地球上の誰の役に立たなくても、ジェルソミーナが大事にしまった石ころ以下の存在だとしても、自分を大事にしてくれない存在を待ったりなんかしないぞ、と強く決意しました。
話の内容とは別に、佃煮にできそうなほどいる子どもたちがころころと可愛らしい。
オープニング・ナイト
すごい、ことあるごとにハードリカーをぐいぐい呷りタバコを吸う70年代。
加齢の恐怖と孤独、自分の芸に納得できない、そこにノイローゼが追加されてつらいつらい女優の話。「ブラック・スワン」と「ジュディ虹の彼方に」を足して二で割ったような... 最後のアドリブ満載(であろう)芝居がおもしろく感じられなかったのでちょっとスッキリしなかった。なんでスタンディングオベーションなの?と思ったし、えっそこシャンパン抜いちゃうとこなんだ?って。ジーナ・ローランズは凄かったけどね。もっと笑うとこ観たかったのでほかの出演作をチェックします。
監督がヤなやつだった! でかい声出す奴は大嫌い。あー芸能界ってこういう関係性があるからハラスメントまで行っちゃうんだなーみたいな納得感があった。それに比べて、舞台裏でサポートする人たちの懸命さに心打たれました。
ダークナイト
今まで知らなかった種類の恐怖を感じる映画。希望がひとつひとつ摺り潰されていく絶望感が強烈で、後半は涙目になって観ていた。ジョーカーは次にどんな音声を発するかもわからなくて怯えっぱなしにさせられたし、バットマンは理念とゴッサムシティの住人の間で板挟みになる中間管理職みたいで胃が痛いし!フォックスとアルフレッドだけが癒し...
でもマンガが原作なんでしょ?って観てないひとは観たほうがいいですよ。この映画の肝はアクションじゃないので。個人的にはヒースジョーカーのほうがホアキンジョーカーより狂っていて凄味があった。理由がないほうがもっと怖いしホアキンジョーカーはややもすると階段のダンスシーンとかかっこよかったからね。
(三部作の第二部だったのを後から知っておっと...となりましたが別に第一部は観なくても全然大丈夫)
燃ゆる女の肖像(ネタバレ感想)
マリアンヌ役のひとの目と首と肌がめちゃめちゃ美しく、そればっかり見とれていた。ソフィの、まるでコローの絵から抜け出てきたような、ミルクとクリームでできていそうなかわいらしさもよかった。
みんなが歌うシーン、歌詞の部分も字幕があるともっとよかった。
燃ゆる女の肖像(ネタバレ感想)
名もなき女性たちの映画。今だってほとんどの人は名を残さないわけで、ああこうやってひとはしずかに生きて死んでいくんだなあという気持ちになった。鬼の居ぬ間に洗濯の開放感がすごかった。いつまでもああしてみんなでご飯を作って食べて、食べ終わったらゲームをしたり本を読んだりして生きていけたらいいのにね。
恋愛パートは、社会に組み込まれたイベントとして発生していないぶん、恋愛の枠組みでお互いを消費してやろうという下心が成り立たないからいっそう純粋なもののように感じた。5、6日くらい?期限がある恋のほうが恋だったものがぐずぐずに腐っていく過程を体験しなくていいから、うんいい思い出になったね~みたいなことを思っていたら、エロイーズはぜんぜんそんなつもりじゃなくて、ええ~なんで泣くの?もうかわいい子供もいるんだしさあ、にっこり笑ってなんだったら幕間にお茶でもしばきなよ!とびっくりしたのだった。ここらへんは恋愛至上主義者に解説してもらわないとよくわからない。エロイーズは奥様になってからきれいになってたから、幸せになったんだと思うんだけど...
バベットの晩餐会
姉妹の若いバージョンと現在バージョンの組み合わせを入れ違えて思い込んでいたのでちょっと混乱した。若いときはつるっとした顔のほうが姉で、ぎょろっとした顔のほうが妹だったから...
バベットの晩餐会
原作愛好者としては、芸術家の創作を希求する姿勢!凄味!狂気と紙一重!のヤバさがかなり後ろに引いていて、んーまあしょうがないかー、みたいな気持ちにはなった。けれどこれはこれでおいしそうだし(「わたしのウズラ」ってまあこれもなかなか聞けない台詞ではある)、建物や衣装が素敵だし、気持ちのよい映画でした。漁村の建物がハマスホイの夏の休暇の絵と同じだったよ。わたしももうずっとグレイと黒のワンピースで生きていこうかという気持ちになった。特別なときは白いレースの襟をつけるの、いいですよね。
リアリズムの話じゃないので個人的に気になっただけなんだけど、普段ドロッとしたスープで生きているお年寄りたちにあんなに飲み食いさせて大丈夫だったんですかね。自分はあんなにワイン飲めない、というか帰ってから気持ち悪くなってる。最終的にこの映画から受け取ったのはおいしいものは人を幸せにするということなのだけれど、まあそれは知っている。そしてふだんいがみ合っているひとたちが一晩仲良くなってもそれは幻想に過ぎないのでは?幻想でもいいという考え方もありますけど。
婚約者の友人
繊細で無邪気な男に良さを感じないので(人間は心が丈夫で言動は抑えめが望ましいと思っている)、手がかかるばっかりの男にアンナがあまり時間を取られなくてよかった、次行きましょう、という感想。だってそもそも大嘘をついてるわけだし、無邪気なていで婚約者がいることは一言も言わないじゃん、あれはろくなもんじゃないよ。被害者の近親に赦しを求めるな。
女の子が悲しんで涙を流せば「よしもっと泣け泣いてすっきりしてしまえ」と思い、何がどうあっても最後に女の子がにっこりしていれば「よしまた人生にコクが生まれるぞ」と思う。アンナは最後に不敵に笑うから、よい終わり方だったんじゃないだろうか。
ドイツ人がとてもドイツ人らしく、フランス人がとてもフランス人らしく、日本のわたしが持つイメージとズレがないのがおもしろかった。アンナの義理のご両親、駅舎でお見送りのシーンですごくやさしい顔をしていてよかったな。ボンクラのお母さんがいかにもフランス風にかっこよかったのも。
アンナがいろいろと着ていた、1920年代直前のすとんとしたシルエットの衣装がかわいい。お洋服好きなひとは注目してください。
PERFECT BLUE パーフェクトブルー
んあー怖かった。仮想的にでも性暴力を扱う話は全身が緊張する。でもミマちゃんひとりが異常なんじゃなかったから、わたしの精神のバランスは保たれました。やーなんかあのひとその1が過剰反応してるなって思ったんですよね!
Netscape Navigatorとか懐かしくて死んだし秋葉原はまだ電気街の面影を残していて、時代でした。あと、アイドルマニアのみなさんの造形のリアルさ。なんであんなにバリエーションありながらどれも説得力あるの。あのおでこの微妙な上がり方とか猫背な感じとか。そしてあのひとその2の声が甲高いとかね、ありそうでね...
『パプリカ』とどっちが刺さったかというとこちら。映像表現としては『パプリカ』のほうがすごいかもしれないけど、デブアムロにイライラして気が散るところがあるので。本作はイライラなし、簡潔にして恐怖。
これ来月に『東京ゴッドファーザーズ』観たら、2020年はコロナと今敏コンプの年になるのね。好きっていうのと違うんだけど、ついつい観ちゃう。