Yakshi – Faithfully Yours (Malayalam/2012)をDVDで。
久しぶりに字幕なし。83分しかない低予算映画(宣伝文句としては実験的作品と言ってたらしいが)。ストーリーは単純で、19世紀ぐらいのケーララのどこかで、ナンブーディリ・バラモンの息子ウンニが雨の夜に出会ったナーガヤクシに誘惑されて関係を持つ。しかし彼は親の決めたミーナークシと結婚するためあっさりとヤクシを捨てる。新婚初夜にミーナークシに取り憑いたヤクシはウンニを殺し、自身の宿主も殺す。一方、現代の若者4人組がヤクシ伝説に興味を持ち、ドキュメンタリーを撮ろうとしてかつてウンニの一族が住んでいた廃屋に忍び込むが、中心人物ヴィシュワ以外の者が殺される一部始終がフッテージとして示される。19世紀部分はカラオケのイメージ動画風の安っぽい演出とぎこちない芝居、一方現代の方は、フッテージなのに効果音やBGMが入るご都合主義。ヤクシ役のアヴァンティカ・モーハンは、ホステス風でいいとこなしの上に、肝心の憑依のシーンはパールヴァティ・ナーヤルに任せるしかないというダメっぷり。エンドロールのヘビメタが印象的だった。
Identity (Malayalam/2025)をオンラインで。
150分盛り沢山アクション。まず不幸な生い立ちにより強迫性障害となった男ハラン導入。コインバトールのアパレル店での試着室盗撮とそれを材料にした恐喝。その犯人が郊外の倉庫で何者かに惨殺される。その捜査で証人保護保護プログラムの元匿われるバンガロール・ベースの女性ジャーナリスト。目撃した犯人の顔をスケッチさせるが、彼女は事故の後遺症で相貌失認であることが分かる。スケッチを担当したのはハラン。やがて捜査を担当しているカルナータカ州警察のアレンが一連の性犯罪録画による恐喝に深く関わっていることが分かり、ハランとアレンのくんずほぐれつの戦いが始まる。ハイウェイでのカーチェイス、旅客機爆破の試み、プライベートジェット内での死闘、ダレはしないけど詰め込みすぎで不完全燃焼。試着室盗撮犯の元締めみたいなセコい悪人がプライベートジェットで逃亡のお膳立てをされる大物になるのが最大の謎。レントゲン室のエピソードはわかりにくかった。ハランの幼時のトラウマは別になくともよかったんじゃないか。証人保護といっても劇中の犯罪現場が白昼堂々で意味なさすぎ。
メモ:日本の映画興行は10年間でどう変化
過去にグローバル市場の分析をした際、それぞれの国の市場構造を3つのタイプに区分したのですが、日本は高単価で限られた人を相手にする“集中型”の市場なんです。逆にアメリカや韓国、フランス、インドでは安価なチケット料金で多くの動員を目指す“拡大型”。日本は「国民1人あたりの映画鑑賞本数」が年間約1.17本の計算ですが、アメリカや韓国に比べると半分以下という水準です。
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通常、SNSの拡散量は作品公開とともにピークを迎えて下り坂を形成していくのですが、入場特典告知のおかげで、公開後にもたびたび拡散量の上昇スパイクが起き、作品の認知拡大に一役買っていました。
入場特典がこれだけ話題化する背景には、日本の“推し活文化”の後押しがあるのだと思います。推し活市場は映画市場の10倍以上にも上る3兆円と言われていますから、ファンが喜ぶ特典を配布して作品を応援してもらうというやり方は理にかなっていますよね。
https://natalie.mu/eiga/column/648967
Akam (Malayalam/2013)をDVDで。
現在温めているテーマ関連で10年以上ぶりに見た。2009年にカムバックしたファハドが超売れっ子になり1年で12本に出演した時の1作。1967年の小説『Yakshi』の映画化。トリヴァンドラムの建築事務所に勤める裕福なアビは同僚のターラと恋人同士。同時にサヴィという同僚からも秋波を送られるが拒絶する。しかしターラとドライブの最中に事故に遭い顔半分を損傷し、足も不自由になる。ターラと疎遠になった時に会ったラーギニという女性と結婚する。2人の周りには、映画館での崩落など幾つかの不幸な事件が起き、いつしか彼は妻がヤクシなのではないかとの想念にとらわれ、妻に殺される前に相手を殺そうと考える。通俗ホラーではなく、芸術よりの文芸映画なので、ヤクシが猫目になったり、牙を剥いたりすることはなく、ひたひたと静かに怖さを演出する。ラーギニーを演じるアヌモールは大ぶりな美女でとてもいいが、その後もB級作ばかりに出続けている。Bhargavi Nilayamを思わせる浜辺や灯台のシーン、クライマックスでの旋回、そしてオフィーリアみたいなラスト、どれもいい。
Odum Kuthira Chaadum Kuthira (Malayalam/2025)をNTFLXで。
ファハドのマラヤーラム語作品としては今年唯一のものだが、コテンパンに批判されフロップ。150分と近年のマ映画にしては長い。結婚式に白馬の王子をやろうとして落馬し、300日の昏睡状態から生還した男が周りの奇妙な人間たちに翻弄されながらなんとか復帰するまでを描く。しかし見てるこちらが認知症になったのではないかと恐怖にかられるほどに抑揚がなく、かつ辻褄が合わない奇妙なエピソードが数珠つなぎに現れる。一方で本作を擁護する意見も散見され、(たぶん監督が語った)鬱抜けのプロセスをブラックユーモア仕立てにした斬新さを評価している。監督インタビューのまた聞きでは、ウディ・アレンのコメディーを意識したものだそうだ。そう言われてみれば、素っ頓狂なあれこれは多少は分かる。ただアレン作品にはあったグルーヴが欠けている。印象的な挿話に登場するグルメな男イッティ役のディヤーン・シュリーニヴァーサンは久しぶりに見た。もう主演格ではない。スレーシュ・クリシュナは老けた。監督は前作でも癌患者とその家族を描いていた。
Sabar Bonda (Marathi/2025)をヒュートラ有楽町で。
フィルメックスのコンペ作品、邦題は『サボテンの実』。バカっぽい感想だけど、アート系リアリズム映画なので、台詞がぶっきらぼうで縦字幕でも余裕で訳せる。字幕はFM氏。普段見ている作品はリアル寄りに見えてもやはり台詞には作為性が高いんだと思う。30過ぎたゲイ青年が父の葬式を行うため遺体と共に村に戻る。村の葬式は古風で厳格なため、10日の服喪を耐え忍ばなければならない。青年はムンバイ暮らしだが、おそらくコールセンター勤務で特に裕福ではなく、また亡き父も運転手をしていたので下層あるいは中流の下位といっていい。しかし両親は慎重にタイミングを選んでしたカミングアウトを何とか理解した。祖父により利発だったと言われた田舎の叔母は正反対に他の親族と共に若者の未婚を責める。田舎の幼馴染はヤギの放牧でカツカツの暮らしをしているが、実はゲイであることが分かってきて二人は心を通い合わせ、情を通じるが、それがリアルなのか夢なのかは曖昧。都会の青年のアップがやたら多いのに対し、田舎の恋人の方は最後まで顔がよく分からなかった。Sairatの音楽。
Sumathi Valavu (Malayalam/2025)をオンラインで。
タイトルの「スマティのカーブ」はトリヴァンドラム近郊Mylamooduの実在のホラースポット。1950年代に妊娠した女性が恋人の手で殺された場所であるという。それ以降、夜間に通行する車のライトが消えたり、バイクのライダーが放り出されたりすることがあるという。しかしそれは、怪談に付け込んだ犯罪者の仕業との説もある。作中に何度かヤクシーという語が口走られるが、伝統的なそれではなく、いわば現代のヤクシーの話。ストーリーは古典的で、ぬるま湯の田舎コメディーの中にお決まりのあれこれをそつなく配置して進む。祟る霊というよりは、正義の味方に近い。思わせぶりにトライブにも言及されるが、効いていない。批評はほぼコテンパンだが、それでも興収で10位につけ、パート2が計画中。アルジュン・アショーカンは前年のBramayugamで初めて俳優として認識したが、同じホラーでも振れ幅がすごい。しかしお人好しの田舎者を演じられるヒーローとして貴重ではないか。ヒロインのマーラヴィカ・マノージは子役かと思った。シッダールト・バラタンは無駄遣い。
Baahubali The Epic (Telugu/2025)の最終興収なる数字。
Telugu States – 23 crores.
KA, TN, KL – 9.80 crores.
Hindi – 8.45 crores.
Overseas – 12 crores.
Total collections — 53 crores. #1 Highest ever for a re-release.
日本の興収はカウントする気がないのか。
https://x.com/letscinema/status/1991051718562623584
Neeli (Malayalam - 2018)をDVDで。
アルターフ・ラフマーンはデビュー監督。本作はほとんど話題にならなかったので、これ一本で消えたか。冒頭のレイプで殺された女性が祟るエピソードは本編と関係ない。若い未亡人が愛娘とともに実家のカッリヤンカーットゥのタラワードに戻る。祭りの晩にその娘は何者かに誘拐されて行方不明になる。同時に彼女の身の回りには超常的な気味悪い出来事が起こり始める。そこでゴーストハンターのレニーが登場し、秘められた闇の領域に迫る。要約して書けば正統派ホラーに見えるが、実見するとちぐはぐなエピソードの連なりが苦痛。特にラストの種明かしとも言えない開示は何なんだというもの。あまり登場シーンが多くないニーリはフレンドリーゴーストという位置づけか。マムタが演じるラクシュミにもニーリの伝説との重ね合わせはある。となるとゴーストハンターはカダマッタット・カッタナールということになるのか。ムスリムらしき霊媒師の女性の大仰な芝居がクサすぎる。しかもこの霊媒師が夜は戸締りして一歩も出るなと言ってるのに夜の森がクライマックスだし。二人のコソ泥のコミックリリーフも利きが悪い。
War (Hindi/2019)をDVDで。
邦題は『WAR ウォー!!』。これまで食指が動かなかったのを続編のために見たが、長くて疲れた。邦人レビューを読んで、WARとはRAWのアナグラムであることを知る。しかしこれ、シッダールト・アーナンドのアクションの中では一番いいんじゃないか。北氷洋でスーパーカーのチェイスをするような荒唐無稽と踊りなどの娯楽要素と体を使ったアクションの配分が、Bang BangやPathaanよりもうまくいってる気がする。ありえない超絶の整形手術というのはもしかしてYevaduからいただいたか。まあ、ヒロインにあたるキャラクターが本当に最初から死亡フラグおっ立てて登場するとか、粗はいくらでもあるけど。ヒロインの重量感あるダンスは良かった。しかし民間スパイにかなり酷いことを頼む。逐一モニタリングできるくらいなら自分で何とかしろと言いたい。タイガーも役者としては見せ場が十分あったけど、ハーリドというキャラクターとしては随分な扱いだった。しかし彼の前半のウルウルは役作りだったとしても見ていて嬉しくない。アクションとしてはリスボン市街のバイクチェイスが一番良かったかな。
分かってはいたけど、それにしてもボリウッド
がプロパーの人たちが持つ俳優の身体性に対する認識のつまらない均質さにはあきれる。大先生にしてからがジュニアの「デブ時代のもの」をいくらやっても仕方ないというような考えを隠しもしないし、笑えると思ってる。別のボリ・プロパーの人なんて、WAR2ですら、「リティクと並ぶと(鍛えてるとはいえ体が貧相で)可哀そうとか言ってた。彼らがそうだということは、北インドの観衆も大体そんな感じなんだろう。デブ時代から贔屓にしてきたこちらとしては、何言ってんだ、だが。あの丸々とした童顔の若造が持つ演技力と秘められた底知れない業の淀みを見抜き、全面的に受け入れたテルグの衆の見識の高さはすごいのだ。
https://cinemaasia.hatenablog.com/entry/2025/11/20/233000
Red Rain (Malayalam/2023)をDVDで。
近年快作を連発してホラーの第一人者になりつつあるラーフル・サダーシヴァン監督のデビュー作。低予算で製作された本作が興行的に失敗したあと2022年Bhoothakaalamまで沈黙した。何とも言えない奇妙な映画。2001年に実際にイドゥッキで起きた、赤い雨の降雨と火を吐く何かが空を横切った事件に想を得ている。科学者が恩師の孫娘、弟分の青年、2人のイタリア人とともに、侵入禁止の山中に分け入り、恐怖体験ののちに地球外生命体と邂逅するという物語。ドラマとしてはダメダメで、101分しかないのは途中で資金が尽きたからなのかと疑わざるを得ない。科学者の行方不明の弟のエピソードが宙ぶらりん、道行の意図も不明。道中の沿道での不気味なあれこれも雰囲気を盛り上げるだけで終わっている。邂逅後を端折りすぎ。シャーリの顔が怖い。地球外生命体がチャチ。しかし冒頭パーラッカードでの不可思議な火柱が空を横切るシーンの予兆に満ちた描写は見事。途中からフッテージものの技法が挿入される。無音や、生活音の一部だけを抽出するような音響処理も含め全体としてホラーの作り。
Avihitham (Malayalam/2025)をオンラインで。
Padminiでほほうと思ったセンナ・ヘグデ監督の最新作。僅か100分超。カーサラゴードのど田舎カーニャンガードが舞台。家を離れて泊まり込みで働くことの多い宮大工の男の妻が隣家の男と不倫をしている(ただし女の顔ははっきりとは見えない)のを目撃した近所の男が、宮大工の家に恩義がある仕立て屋にそれを打ち明け、次の夜には2人で張り込み、疑惑を確信に変える。そして2人は不倫妻をとっちめなければならぬという使命感に燃え、夫やその父の棟梁などに知らせ、さらに多くの人とそのことを共有することになる。この間のPonmanでもそうだったけど、「スーパーマンでも聖人君子でもない、欠点もあるカタギの一般人」の許容範囲がどう考えても日本人よりも広い。そういう意味でマラヤーラム語映画の世話物は怖い。ただまあ、限界集落ヴィレッジ・ホラーにもなりえる素材を本作はギリギリのところでコメディーにしている。カーニャンガードは調べてみれば景勝地もあるエリア。舞台となる家を取り囲むのは緑豊な自然だが、美しさよりは田舎の退屈さの方が印象に残るようになっている。
Padakkalam (Malayalam/2025)をオンラインで。
現地で評価が二分された面白い例。学園を舞台に、黒魔術を使い学内政治で優位に立とうとするキレ者教授と、そのライバルの色々問題を抱えた教授、黒魔術の場を偶然覗いてしまった冴えない奥手の学生と仲間たちが繰り広げる三つ巴騒動。魔術遣い教授から呪物を盗み出した学生が呪物に手を加えるとボディスワップが起きてさらに混迷する。学園物との組み合わせとか新機軸はあるが、昔から連綿と作られてきた黒魔術映画のバリエーション。ボディスワップが3人の男の間で起きるという設定により芝居を見る楽しみが増幅し、シャイフッディーン、スラージ、サンディープ・プラディープがそれぞれに上手かった。特にシャイフッディーンはもう少し注目しようと思った。怪異の起きるロジックは、科学的にはもちろん、劇的必然性もなく、ストーリーを動かすためだけにあるご都合主義のでたらめだけど、とりあえず笑えたし、スワップが起きてからも借主が酒を痛飲すると体の元の持ち主が急性アルコール中毒で倒れるるなど全く意味不明。ラストシーンで「何を期待してるんだ、第二部はないぜ」というのが笑えた。
Ponman (Malayalam/2025)をオンラインで。
知人が激賞と聞いて。先日再見のMangalyam Thanthunanenaに続き、金の宝飾品へのオブセッションを描くものだった。冒頭のコッラム讃歌は面白い。KUBOの世話物に特徴的だが、ヒロイズムを体現した登場人物がおらず、誰もが強欲・虚言・自己中心・暴力などの欠点を持つ一般人なのだが、その許容範囲がどう考えても日本人よりも広い。借りたものをごまかして返さないという時点でヒロインの一家は極悪サイコパスだと思うが、決定的な罰は与えられない。見る文化人類学だ。ラテン・カトリック家庭での持参金をめぐるハードコア・コメディー。結婚式出席者が祝い金を出す習慣や、ダウリの金製品ブローカー業は初めて知った。三分の一ぐらいから登場するアジェーシュは見かけはともかく、超人ヒーロー然として不敵な笑みを絶やさず、肉体的に優位な相手に対しても仕掛けたり挑発したりするが、いざ戦いになると全然強くない。不敗のスピリットだけがある感じ。マラヤーラム語映画はコメディーの体裁で一般人に潜む獣性を淡々と描く。 極悪島のロケ地はMunroe Thuruthu。
2025.11.19現在の日本の映画興収ランキング。
鬼滅・国宝・コナン~と40位までランキング表示。40位の「事故物件ゾク 恐い間取り」が10億円。そこから0.01億円まで並び、インド映画は0.1億円の『KILL 超覚醒』(封切り1週目)だけが書きだされている。ツ社のどんな作品ものってこなかったか。
https://pixiin.com/ranking-japan-boxoffice2025/