Ki & Ka (Hindi/2016)をオンラインで。
昨日こってりなものを見てしまったので、何を見ても腑抜けたものに感じられてしまうだろうと思ってたけど、あっさりした食後のデザートのような感じで気持ちよく見られた。いわゆるボリウッドのリベラルの絶好調の頃のもの。今公開したらボイコットに遭ってたかも。車の中で致しちまうとこなどは既に珍しくなかったけれど、妊娠が疑われ、それが杞憂だったと事が分かって大喜びなどという描写は保守派が眉をそばだてたことだろう。実は見ながら心配していたのは、妊娠を機にヒロインが命の尊さに目覚め、主婦に転じて「これが女の幸せ」などという結末になりやしないかということだった。しかしそうはならず、脚光を浴びる仕事とそうではない仕事との間での解決できない相克の方に行くのだった。ただ、逆転はしていても、男女共に担当する分野での能力は最高。それが御伽噺感を出していて、TGIKのような深刻な問題提起にはなっていない理由か。そのせいか、現地のレビューはあまり芳しくない。ヒーローがお洒落な鉄道模型マニアというのも吃驚設定。デリーの国立鉄道博物館がロケ地になっているのは初めて見た。
RRR (Telugu/2022)を新宿ピカデリーで。
監督主演の舞台挨拶回。一握りのテルグ人の行儀が悪かった。やはりNTRの夜の大サーカスはあがる。通し見は4回目だけど、分からないところはまだ分からない。毒蛇に咬まれて瀕死のラームが叩く音、セルに閉じ込められたラームを探すビームの叩く音。あれの伏線はあったっけ?もしかしてNaatu×2のリズムだったっけ。それから何度見てもイギリス人の衣装や室内装飾が気になる。アナクロニズムで1990年代を再現したというならまだ分かるけど、デザインに一貫性がない。英国側の描写の弱さはヒロインのジェニーにも。あの女優をわざわざ抜擢するならエイミー・ジャクソンで良かったじゃん。チャランをやや上手においた構成というのは変わらないが、彼が宝塚の男役に見えて仕方がなかった。特に赤い軍服。一方でNTRは新派の大芝居。それが同居してちゃんと調和しているのが凄い。クライマックスの例のラーマの扮装は、要するにシーターラーマラージュがあそこでコスプレの味を覚えたということなのか。ラーマが蛇に咬まれた時、および足を痛めつけられ独房に入れられた時の、ビームの薬草の驚異の回復力。
近年のインド映画の公開時の映画館の数②
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『王の凱旋』の劇場数は累計で90館程度で、完全版は全国73館で上映する予定です。
『バーフバリ』はテレビスポットも新聞広告も打たず、どちらかというとSNSの口コミで広げていった映画で、あまり宣伝費をかけていません。館数は少なく見えるかもしれませんが、宣伝の規模を考えれば、我々としては妥当だと思ってます。
そもそも、興行収入と館数はあまり関係ないんですよ。逆に館数を増やすと経費がかかるので、独立系配給会社はできるだけ経費をかけずに興行収入を上げようとしているんです。
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それが今度のRRRは200館超とは。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/30/baahubali-twin_a_23446544/
近年のインド映画の公開時の映画館の数①
松竹が鳴り物入りで仕掛けた『チェイス!』が、「その数ざっと100館超」と形容されている。これでかなりの大規模展開だった(そして見事にコケた)。
https://blog.goo.ne.jp/cinemaasia/e/0620a58cf795b63e146053300a3ae65a
RRRの10/21の封切り、
劇場数を数えてみたら、212館にもなり、腰を抜かしている北海道7、東北17、関東75、中部42。関西29、中四国18。九州沖縄24。
https://rrr-movie.jp/
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)をユナイテッド・シネマ、アクアシティお台場で。二回目。
前回は固有名詞の洪水で溺れずについていくのが精いっぱい(少し溺れたか)。今回はコミカライズ原作を読んだりして多少は理論武装したが、はっきりしない点はまだ多い。ヴァンディヤデーヴァンとアールワールカディヤーンの間者としての位置づけとニュアンスがやや曖昧だが、この辺りはストーリーを最後まで見れば分かるのか。後半のスリランカの森でのチェイスのシーン、木を撓ませてから離して騎乗のヴァンディヤデーヴァンを倒すのはKaithiからの引用か。プーングラリとスリランカ沿岸の漁師たちとの関係は何なのか。ヴァーナティもまた小国の王女で、アルルモリとの結婚を期待するのは高望みではなく現実的なのか。ヴァンディヤデーヴァンは割と誰にでも惚れるタイプと見ていいのか。コットラヴァイ信仰をおどろおどろしいもの、パーンディヤ残党の悪役性と結びつけたものとしたのはどうなのか。貴婦人がマントラヴァーディを呼びつけるというのは何なのか。それからやはり地図を作らないと。適当なところまでコミックを読んでから着手する。
Ramayana: The Legend of Prince Rama (English/1993)をYTで。
公式データで135分のものがYTでは128分しかなかった。4kリマスター前のものなので画質は良くないけど、想像力で補える部分はあった。字幕は自動生成だが、固有名詞以外は結構拾う。英語映画(ソング歌詞のみサンスクリット)として製作されたが、後にヒンディー語バージョン、アメリカ人声優を使った米国英語バージョンも作られたという。作画は小林一幸、手掛けたその他の作品も画像検索したが、本作における品格は抜きんでたものに思える。主人公に近いキャラクターほど「脱アニメ絵」的で、若干日本画を思わせる面も。ハヌマーンを始めとする動物はアニメ絵寄りだけど、メインキャラに釣り合った程度のデフォルメ。ストーリーは正調も正調だが、ところどころ戦後平和主義的なものも混じる。戦闘はあるが流血描写はない。ラストはランカー島からの凱旋で終わるが、「数年後にラーマは天に召され、シーターは大地の女神のもとに戻った」というナレーションが被り、寂静の心地がする。ラーマやバラタの肌は青ではなく白。ラーヴァナの造形もよい。
Dhruva (Telugu/2016)をオンラインで。
字幕なし。RCを潰す修行:苦行のラスト一本。まあただ原作のThani Oruvanはすごく面白かった一本だし、字幕なしでも筋立ての概要は分かる。却って休憩なしで見られたぐらいだ。8の字とガウタムの最終メッセージだけは分からなかったけど。それにしても、RCのムキムキマッチョ(しかもそれをこれ見よがしに晒す)は辛いわ。胸板を厚くしても鼻から下の薄さが何とかなるわけじゃなし。原作でのジェヤム・ラヴィはあのもっさりした感じが逆にセクシーだと言われる結果になったんだけど、RCの場合はハード&マッチョな体とお人形さん顔のミスマッチがますます痛い。ストーリーは緊密で、そればかりに目が行かないようにはなってたけど。アラヴィンド・スワーミは何だか眠そうだった。オリジナルの細部を覚えていないけど、こんなにヒーローは全知全能だったっけ?引ったくり団のアジトがゴールコンダの城壁内というのはヴィジュアル的にちょっと良かった。それから密談の場面だったかでチャール・ミナールにわざわざ上っている場面があって、絵としては綺麗だけど何の意味があるのか分からなかった。
Bruce Lee - The Fighter (Telugu/2015)をYTで。
珍しく上映会を見のがした一本。ポスターの印象から、また例によってRCが泣き面で復讐するだけの話かと思ったら違った。なんたってシュリーニ・ヴァイトラ。2時間半をフルに使ってのトンチキなアクション・コメディー。RCは本格的コメディーは初めてか。映画界の下積みとしてのスタントマンという設定。古いスタイルのテルグ映画らしく、ヒロイン、悪役、コメディアン、いずれもが多重セッティング。特にコメディアンはインターミッション後になってからポーサーニ、ブラフミー、アリーなどを投入するというシュリーニ節。全部で10人ぐらい出てきたか。そしてコメディアンがふざけ散らかす前で悪役がリアクションに困って固まるのを構わず撮るという昔の作法でガンガンに進む。そしてラストの絶体絶命ピンチ(体は一つ系)に親父チランジーヴィがStyleと同じやり方で投入される。ハイダラーバードでドンパチやってたらいつの間にか公海でのボートアクションになってたりで後半に行くほど加速する。身分詐称の落とし前をつける部分はもう少し捻りを効かせられたらと思った。
Zanjeer (Hindi/2013)をオンラインで。
多分見ることはないと思っていたものを行きがかり上見てしまった。色々メタメタで、ヒンディー語版だけでなくテルグ語吹き替え版も全方位から批判されて撃沈されたのも頷ける。監督のアプールヴァ・ラーキヤーは全然知らないけど、のこのこ出てきた田舎者のラームチャランを鴨って評判をガタ落ちにさせようとしたんじゃないかとすら思える。プリヤンカ―やサンジュなどギャラの高い俳優を揃えることで徒に製作費を高騰させ、他は思い切り手を抜いたものに見える。オープニングからいきなり下品なアイテムダンス。チャランはベッドシーンまでやってた。原作から40年経った現在の皮相な部分のみをアップデートした、魂のこもらないリメイク。精力減退に悩むオイルマフィアのテージャはカリカチュアみたいだ。原作のバッチャンは演技が下手でも立ってるだけで絵になったが、逆にチャランは誠実に演技しようと努めているにもかかわらず絵として全然ダメ。唯一面白かったのはギャングの作業場のスラムを火の海にするシーンだけど、スラム破壊というのは別の意味で今日的にヤバいというのに思い至らなかったのだろうか。
Zanjeer (Hindi/1973)をオンラインで。
歌詞のみ字幕なし。40年後のリメイクを見る必要ができ、それもなるべく早く見なければならないのだが、初見がヘタレなのは嫌なのでこれを先に。2時間25分を一気見。格子窓とカーテンの比喩は面白かった。バッチャンの演技は上手くない。ただ、立ってるだけで絵になる男だったのはよく分かる。圧巻はプラーン。あまり丁寧なキャラクター造形がされていないにもかかわらず、そのデカい顔で魅了する。「怒れる若者」映画の嚆矢で、この脚本は当時のボリウッドのロマンチック・ヒーローたちに軒並み断られたのだそうだ。幼時の惨劇のトラウマから最終的な復讐まで、今日のテルグなどの定型的な暴力映画のエッセンスの全てがある。ソングはパシュトゥーン風宴会ソングYaari Hai Imaan Mera, Yaar Meri Zindagiがダントツ。an influence of the Pashtun instrument rubab, and is danced to by men in the attan style.だそうだ。https://en.wikipedia.org/wiki/Pathans_in_India
Racha (Telugu/2012)をDVDで。
チャラン出演作全潰しの一環で。懐かしい感じのするテルグの満漢全席。親父作品からの引用、自分の過去作からの引用、お色気、出づっぱりコメディアン軍団のお笑い(中にはPCで警報が鳴るレベルのものもあり)、過去の因縁と復讐、激悪のヴィラン、合掌して最敬礼する村人たち、何をやっても常勝のヒーロー像、ヒーローを引き立てるための百人超の群舞、素手・棒術・火器・巨大刃物での趣向を凝らした格闘、霊験あらたかな護符、女神の加護、インターミッションでのひっくり返しなどなど、手際よく盛りつけた大皿。この時チャランは27歳ぐらい、デビューから4作目。ともかく、テルグのスター俳優たるもの、優しい女顔でスリムというだけじゃダメで、デュエットでは男臭さを、格闘では殺気を帯びなければならない。前者はダンススキルでカバーもできるけど、後者に関しては持って生まれた素質に左右される。三白眼にしてみるだけじゃ神気は立ち上がらないのだ。その辺りでまだもがいている感じと、口角の上げ具合&顎の突き出し具合とが、やはり見ていて痛い感じがある。お膳立ての上で期待に応えようと必死な様子。
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)がなぜそんなに良かったかというと、
ただもうカラリとしているからなんだと思う。近世以前のタミルの爽やかで闊達な空気感。どろどろした人間関係や凄惨な戦闘の描写はあるが、カールティのキャラクターがそれら瘴気をすべて浄化してしまう。キン肉マンショーをする男がほぼいないのも画面の清澄さの理由。翻って最近のヒンドゥー教絡みのファンタジー小説(特にAmish Tripathiのもの)はなぜああもドス黒い色味を強調し、ボディービルダーが正面に描かれるビジュアルに走るのか、そして映画でもそれと同じ路線に走ったものが多数。あれが正調となってしまったら嫌だ。
Ponniyin Selvan 1 (Tamil/2022)をユナイテッド・シネマ、アクアシティお台場で。
612席の巨大スクリーンが満席で95%がインド人。マニ・ラトナムに対してはクールに構えるようになってからずいぶん経つが、どういう訳か本作には見る前から大興奮。空前のスターキャストのせいもある。蓋を開ければ、ストーリーは水のように薄いのに新鮮な感動があった。SLB何するもんじゃい、SSR君露払いご苦労じゃ、ってな風格と軽みが共存。神懸かったところのないドラヴィダ民族主義的歴史ロマン。タイトルロールはジェヤム・ラヴィだが実質の主役はカールティ。「カールティ君の大冒険」的な諸国遊行譚にも読める。アイシュとトリシャはもっとビシバシと戦ってほしかった。タミルの戦士はもっと花で美々しく飾り立てて欲しかった。何でこんなに後味がいいかというとあれだ、ムキムキ誇示マンが出てないからだ。エンドロールも興味深く、ナスリーン・ムンニ・カビールが字幕翻訳の筆頭だとか、ビジョーイ・ナンビヤールがセカンドユニットの監督をしてるとか、いちいち驚き。予習は不真面目にしかしていかったので最終シーンで驚くことができた。
ハッピーログイン(좋아해줘 /Like for Likes、2016)をオンラインで。
韓国文化院提供の映画特集で。久しぶりに韓流で平均以下のものを見たか。グズグズとかそういうのではないんだけど。韓流若手スターと「先生」と呼ばれる年上の有力脚本家、スチュワーデスとシェフ、芸能事務所の女性社員と聾者の作曲家、3組の男女の恋物語が最後に仁川空港で大団円という恋愛ファンタジー。それぞれの恋模様の動因がフェイスブック上でのライクだの友達申請だの公開範囲変更だので、FBへの依存ぶりが半端ない。現地ではマルチスターということでウケたのか。作劇上のアクロバットとして登場人物全員を空港に集めたかったのは分かるけど、余り上手くいっていない。SNSでお互いの現在位置などが分かってしまうというのは危険をはらんだものであるはずなのだけど、最後なんか俳優が自分の知名度を生かして恋人の情報を広く募り、別のヒロインが親切に通報してあげちゃったりしてるのはどうかと思った。あと、どちらも年下との恋愛をしている二人のヒロインの顔が似すぎているのも気になった。整形で皆同じ顔になっちゃう例なのか。シェフは飛行機でどこに行った?
Prem Geet 3 (Nepali/2022)をイオンシネマ市川妙典で。
初めてのネパール映画、英語字幕付き。マナーングの絶景のもとで繰り広げられる(たぶん)17-18世紀ごろの物語。ヒマラヤの巨大盆地を支配する首長国の王子二人の争いと、そこに絡む過去に征服された小国の生き残りのリベンジ。OLさんみたいなヒロインよりも妹ちゃんの方が可愛い。主人公はメタル系のザンバラ髪で金髪メッシュ入りというのに首をひねったが、そういえばシヴァ神がそんな髪だったか。恋愛よりも血腥いアクションが売り物のようなのだが、その殺陣が、まず猟銃(のようなもの)、そして手斧というのが意表を突いた。あまり生々しくない振付はボリウッドを意識したものか。しかし銃と斧だけだとバリエーションが尽きて、最後の方は胃もたれがした。王位をめぐる争いは「バーフバリ」味、恋愛の方は「梁山伯と祝英台」味がした。ラージャグルの一族の息子にはシャクニ味も。非業の死を遂げたヒロインを抱えてヒーローが雪山に登っていくシーンには、サティーを失ったシヴァ神のイメージが重ね合わされた気がする。いわくありげな黄金のブレスレットがあまり生きてなかった。
Vendhu Thanindhathu Kaadu Part I: The Kindling (Tamil/2022)を川口スキップシティで。
ガウタム・メーナンとシンブのタッグ、2部作、1部だけで2時間 45分のギャングサーガと、ハードルの高い1本に思えたが、川口で観られるというので腰を上げ、実際にはスルッと楽しく見られてしまった。ジャヤモーハンの原作というのも理由かもしれない。故郷で色々あってムンバイに流れ着き、最底辺で蠢くうちに犯罪の世界にどっぷり浸かる、という定式通りのストーリーながら、シンブの芸達者のせいで飽きずに見られた。南タミルの僻地で暮らす鬱屈した大卒の動物的な体臭、ムンバイにたどり着いて異郷で一旦赤ん坊のようになってしまった無垢、見染めた女にまともな口もきけない奥手から、テラスでの逢引をするまでになる(それでも21歳だが)成長、それぞれをシンブは見事に演じていた。トゥラシのまさかのギャングのフィクサー役、デリー・ガネーシュのいわくありげな登場、ラウタルという役名の小男の刺客、などなど癖のある脇が飽きさせない。ニーラジ・マーダヴの役だけは謎が残る。後半で明らかになるのか。
こないだ書店で先月出たばかりの『韓国女性映画 わたしたちの物語』を立ち読み。
高いからマーケットプレイスに出るまでは買わない。索引がついていないのはどうかと思った。「私は私を解雇しない(나는 나를 해고하지 않는다、2021)」「小公女 (소공녀/MICROHABITAT、2017)」を取り扱っていないのはどうかと思った。索引がついてないから本当に全く言及がないのかどうかは分からないけど。昨日見た「最も普通の恋愛(가장 보통의 연애、Crazy Love、2019)」だって、チャラチャラしてるけど女性映画だよなと。まあ、日本で劇場公開されたもの=自分の目に触れたものだけで外国映画を語ってしまえるという根拠なき思い込みの人が編者だからそうなってしまうのかもしれないけど。