書店でan an特別編集の「九龍城寨之圍城」特集本をパラパラと。」
ファッション雑誌の巻頭にグラビアがある程度のものかと思ったら一冊丸ごと映画の本(観光ガイドが多少あるとはいえ)だった。社内によほど好きな編集者がいるのだろうか。印映ではこういうのは無理なのか、タイミングがもうちょっと良ければR3あたりでも出ていたか。HKの権利者がこうしたものに理解があって画像の使用などで好条件だったのかもしれない。それにしても、この20年以上のHK映画@ジャパンの不毛ゆえに、一緒に並べられるような生きのいいHK映画ガイド書籍が全くないのがすごい。今現在、有象無象のいっちょ噛み勢も含めて一所懸命に作っているところなのかもしれないけど。近くに置いてあった、個人の長年の研究の結晶としての労作であるグルジア映画への旅/ジョージア映画全史を見て、なんだかため息をついてしまった。
Dragon (Tamil/2025)をNTFLXで。
先日のDudeに感心したのでプラディープ・ランガナーダン主演でさらに興収が上の本作を。しかし本作はやや長く感じた。初っ端の高校時代のとこはダヌシュのゲスト出演かと思った。プラディープとダヌシュ、どこが違うのかずっと考えてたけど、ダヌシュの持つある種のカースト的な影の有無なのか。それからフェイスエクスプレッションもか。明らかにKaadhal Kondeinあたりを意識してる。堅物学生がそれを理由に失恋し、反動で大学ではイケイケの不良になる。単位不足で卒業できず、悪徳ブローカーに頼んで書類を偽造し・面接でズルをしてIT企業に入社。地頭はいいので、企業内で適当に努力して成功者となる。しかし大学の学長に尻尾をつかまれ、脅されて学生たちに交じり不足していた単位を取得しようとあがく。古典的なcoming of ageものだが、悪いヒーローが悔悟・更生するだけではなく、法に則った罰を受け、また映画的チートなしでゼロから再出発するのを描くのは珍しい。ナポレオン演じるお父ちゃんがいい味。元カノ役のアヌパマもかわいいし、再登場シーンではセクシーだった。
Dude (Tamil/2025)をNTFLXで。
Love Today (2022)、Dada (2023)あたりの系譜に連なるリアル若者映画のパロディー的なもの。従兄妹で幼馴染の二人、従妹の方から大胆な求愛をするが、従兄の方は恋愛感情ゼロと言い拒絶する。しばらくして従兄は埋もれていた愛に気づき再びアプローチする。その時彼女には別の恋人ができていた。すれ違いで相思相愛の相手を逃すという点で「デーヴダース」、愛する相手の自分以外の男との恋路を応援するという点で「シラノ・ド・ベルジュラック」。プラディープはLove Todayで見てたけど、これほどに身体能力が高いとは知らず、冒頭の結婚式シーンで目を見張った。どう見ても南インドの基準でもイケメンではない相貌だが、表情の多彩さがそれを忘れさせる。ダヌシュとの差別化は言語化が難しいが、成功しているように思える。ストーリー展開のテンポもいいし、腹を抱えて笑うところがあった。サプライズ・セレブレーションの仕掛人という職業のフワフワ加減と、血も凍るカースト主義者の伯父というコントラストがすさまじい。マミタ・バイジュも上り調子のヒロインとして認識した。
Kaantha (Tamil/2025)をNTFLXで。
英語字幕がよくない、ところどころ抜けていて、また意味がよく分からないところもあった。1950年代のマドラスの映画界が舞台。孤児から身を起してスーパースターになったTKM。彼の恩師であり、数年前からの確執で今は絶縁しているアイヤと呼ばれる監督、アイヤが見つけ出し才能を開花させようとしている元ビルマ引き揚げ者の若い女優。プロデューサーの懇請でこの3者がホラー映画を作ることになるが、撮影現場は異様な雰囲気、しかし女優とTKMは惹かれ合い、密会を重ねる。重厚でレトロな雰囲気がよい。DQの演技は絶賛されているが、タミル初のホラー映画の内実がもっとはっきり示されればさらに感動できたと思う。実在映画人のモデル問題は完全にフィクションと分かる。過去のスターたちの逸話から満遍なく拾ってきている。製作者は明らかにMahanatiにインスパイアされているが、劇終の謝辞には同作の製作陣の名前はない。推理ドラマとしてはグダグダで、そもそもあのテープがなぜ録音されたのかが分からない。ラーナーが演じる警察官は、後半のリフレッシャーだが、造形に説得力が足りない。
8 Vasantalu (Telugu/2025)をNTFLXで。
The Girlfriendと並び本年のテルグの女性映画と紹介されていたので。しかしこれは同類ではない。主な舞台はウーティー。ウーティーを舞台にした多くの作品と同じく、きらきらビジュアルに盛んなポエムの引用。この感じなんだったっけと頭の中が痒くなったが、ずばりそれだというのは思い出せず。Andala RakshasiやHi! Nannaが近いか。ヒロインのシュッディが17歳にして極東武術の達人かつ作家というのがもうぶっ飛びすぎてる。毎日鍛錬している様子もなく、作家としてカシミールなどの景勝地を巡って贅沢三昧。それでも異性にはいたって簡単に心を明け渡す初心さをもつ。しかし初恋が裏切られたときに、「お前を殴り倒したいが、そうしない。なぜなら母は私を女王として育てた。女王は葬儀においてさえ尊厳を持って悲しむ」という中盤がクライマックスか。これは作中で言及される作家チャラムの影響があるようだ。武術(礼のしかたなどにニセモノ感あり)といい、友人役が日本の製靴会社に就職するところといい、日本の影がある。すごいアクションシーンがある。
The Girlfriend (Telugu/2025)をNTFLXで。
なぜか英語字幕がとても読みやすい。大学の英文科に入学した女子が、同期の情報科学専攻の男子にほぼ一方的に求愛され、なし崩し的に恋人となり、さらにその先に進む過程で疑問を感じ始めるという話。ほぼホラー映画の作りで、ローヒニ演じる男子学生の母の登場シーンで恐怖が最高潮になる。高等教育の場に進みながら主体性を抑圧するような育てられ方をした女子の物語なので進行が緩く、徐々に恐怖が積みあがる。リードペアが肉体関係を持つストーリーに対する批判があるらしいが、肉体関係をもったことを後付けの台詞でしか表さないのが問題と思った。ドゥパッターの象徴性が印象的。一人まともで開明的なことを口走る教授役のラーフル・ラヴィーンドランは監督でもあり、TGIKのリメイクでも監督・主演をこなした人物、しかも実生活ではバラモン階級出身(本人は出自のレッテルを否定)でチンマーイの夫だと知る。この物語、プロットを全く変更することなく、従来型のテルグのやんちゃヒーロー映画にできるなと思った。比較の対象はTGIKではなく、Arjun Reddyだろうとは思う。
Diés Iraé (Malayalam/2025) をオンラインで。
注目のラーフル・サダーシヴァン監督の最新作。相当に怖いと聞いていたけど、自宅で休み休み観たせいか、それほど。前々作『Bhoothakaalam』のほうが怖かった。でもクライマックスのシーンでは、怖さというより「早よせい!」感で肩に力が入ったのは確か。在米NRI建築家の息子で、コッチでも大邸宅に住む富豪。アメリカ流に異性ととっかえひっかえ付き合い、パーティーライフを楽しむ。しばらく前にうっとうしくなって捨てた女性が自殺したことでさすがに衝撃を受ける。普通の観客なら共感を拒むアンチに近いヒーローを演じるプラナヴの役作りはまずまず。しかし多くのロマンス映画やホラー映画で当て馬的に登場する鼻持ちならない富豪の息子(悲惨な最期を遂げて観客の留飲を下げる)とは違う厚みを持ったキャラクターにしているのはプラナヴが持つ天性のものか。シャイン・トム・チャッコーの写真での出演は微妙な感じ。あそこでは見慣れた顔じゃない方がよかったのではないか。このキャラはキーになっているけど、その最後などのエピソードの詳細ははっきりせず、やや不満が残る。
Past Lives (Korean/2023)をNTFLXで。
邦題は『パスト ライブス/再会』。あの地下鉄の中のシーンのスチル写真(メインビジュアル)がどう見ても『’96』だったんで、リメイクなのか、インスパイアなのか気になっていた。多少情報を漁ると、ヒロインの設定には韓国系カナダ人であるセリーヌ・ソン監督の自伝的要素が強いことが分かった。しかし女性が外国住まいで既婚、男性は未婚の設定、幼い恋が成就せずに親の都合の移住で突然引き離されてしまったとか、女性のほうが明らかに社会階層が上だとか、最後の対面シーンのあれこれとが、既視感がある。それから、感情移入をさせられながら分かりやすい恋愛の勝利にならないという点で一部の観客が憤激してしまったという点でも似ている。別にパクリとかそういうのじゃなく、どこかに接点があったのだろうか。「イニョン(縁)」の説明のところで、「袖すりあうも他生の縁」がそのまま出てきて驚いた。元は仏教からきてるんだろうか。「パスト・ライブス」というタイトルは前世とも過去においてきた生活とも取れる。このレビューは参考になった。https://www.tbsradio.jp/articles/82771/
Pushpa2、
上映の45日前というショートノーティスは、基本的には短期決戦で上映実績を作るため(本来の目的はインドで日本映画を公開する方)ということなのか。しかし一方で3時間42分の作品で今日時点で56館のブッキングというのは大化けを狙ってるか(松竹のパワーを見せつけてる)。一方でMVの方は一時の勢いと数合わせで買い付けた会社が、結局扱いかねてニッチ作品を扱うプロダクションに下げ渡したというところか。
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=pushpakunrin
Hridayam (Malayalam/2022)をオンラインで。
は作為が感じられるが、立ち直りの契機としてはそれなりの説得力があった。それにしてもモーハンラール、プリヤダルシャン、シュリーニヴァーサンの子供達の映画を見て楽しむことになろうとは。/最後まで見ての感想。いわゆるComing of Ageもので、複数の恋愛経験で初めて大人の男女が完成するというAutographやPremamの系譜。さらにBad Girlや’96の要素もある。芝居の上ではダルシャナ・ラージェーンドランに一番の見せ場。カリヤーニは、やや型にはまったキャラクターで、後半に登場してかなり早回しの中で演技させられていたような感じ。後半の社会人編ではヴィニート監督らしい綺麗事の御伽噺がやや目立った。プラナヴの演じるアルンは前半で「ストーカーなどしない、正面から挑む」と新世代の言明をするが、それでも相手を裏切る行動をしてしまう。それにより愛を失い、手痛い経験から学んで成長する。その辺のリアリティーがとても良い。音楽は、ムスリムのMDなのにカルナーティック風味が随所にあるのが珍しく、ところどころにアラビックなテイストも。