ロング,ロング・バケーション
想像してたよりもかなりシリアスで、アルツハイマーと癌でそれぞれのアイデンティティが消えつつある老夫婦が寄り添いあっているような映画でした。楽しい映画を想定していたから思いがけず気持ちが悲しくなってしまって、開いてたバーに飛び込んでお昼からビールを飲んでいます…。
アスファルト
https://filmarks.com/movies/66980/reviews/44450103
フランスのぼろ団地を舞台に、偏屈者おじさん、気だるげな美少年、気のいいアルジェリア出身のおばあさん、かつての人気女優、何かの手違いで団地に降り立ってしまったNASAのパイロットが、それぞれの生活のなかで、少し新しい絆を得ていく、素敵可愛い映画でした。
アバウト・レイ
https://filmarks.com/movies/60302/reviews/44145429
現代はThree Generations。実際のところ、物語開始時にはレイの決断はなされ終わっており、むしろ母親と祖母がそれぞれ娘/孫娘を失い、息子/孫息子を得るということを受け入れるに至るプロセスに主軸が置かれています。少しシーンのつなぎやカメラワークになんとなくこなれない印象があり、のめり込みにくい映画になってしまっているのですが、各人物の作り方は丁寧で、あと作中に出てくる本のタイトル以外に「トランスジェンダー」のような言葉を出さず、ひたすらレイを「男の子」と描写しているのにも好感を持ちました。そしてエル・ファニングの演技がすごい。声の出し方、仕草、表情すべてを男の子にしてきてるし、女の子扱いされたときの顔つき、男の子扱いされたときの笑顔がとてもいい。普通に少年でした。高い声で歌い出して低く調整する様子など、とてもリアル。
デトロイト
https://filmarks.com/movies/73411/reviews/43976897
恐ろしい映画でした。正当性を感じさせる憤りからの抗議は暴力的な暴動になり、暴動を終わらせようという正しそうな姿勢はモーテルでの虐殺に至る。何か正しそうな思想に基づいていたとしても、力を帯びれば暴力が拡大するしかない。けれど、法もまた正義には至らない。明確な主人公をおかずにいろんな視点を行き来する構成のもと、このとてつもない不条理、どこにも正義が見出せず、ただ弱い人々が苦しんでいくだけの世界を、見せつけられます。もともと実際にそうだったというのもあるのでしょうが、黒人vs白人みたいな形でおさめず、実際に事件に巻き込まれた黒人警備員や白人女性はもちろん、最初の場面でも黒人警官を置いたり、最後に傷ついた若者を病院へと連れていくのは白人男性だったり、肌の色だけで語ることを拒絶するような配置になっているのもすごい。この圧倒的などうにもならなさ。
ジュピターズムーン
https://filmarks.com/movies/74106/reviews/43894067
物語的には粗いのだけど、胸がきゅっとなるような苦しさを感じさせる映画でもありました。現代のハンガリーを舞台にシリア難民の少年がテロリストの嫌疑をかけられ、逃げ惑う話。少年は亡命中に銃撃されたことをきっかけに宙に浮く能力を身につけるのですが、医師である主人公がこれを利用してお金稼ぎをしようとするうちに、次第に互いへの信頼を抱き始め、少年を捕まえようとする人々からともに逃げようとするという筋。宙を浮くというと『グラヴィティ・デイズ』のような楽しくかっこいいものを想像してしまうのですが、映像はかっこいいものの、少年は浮かない顔で手足をぶらぶらさせて宙ぶらりんになるばかりで、難民であるがゆえにテロの嫌疑をかけられてハンガリー内に居場所を持てず、しかし故郷もないという少年自身の寄る辺なさがその能力の描写に現れているかのようでした。
おとなの恋の測り方
とても背の低い男性との恋愛を描く作品。展開に粗いところが多く、よく出来た映画とは言えないと思いますが、それでも低身長というのを単なる個人的なコンプレックスとはせず、マイノリティとそうしたひとへの偏見の問題として描こうという方針はとても面白く感じました。
花とアリス殺人事件
はじめはアリスがボーイッシュな性格すぎる、お母さんがしっかりしすぎてるなど、何か違和感を覚えつつ見ていたのですが、終盤になるにつれて、「ああ、確かに『花とアリス』のあの感じだ…!」と実感し出し、終わるころには「こうやってあのときのみんなになるんだな」と納得する、そんな映画でした。お母さんがラストにちゃんとだらけてたとき、ほっとしました。キットカットの登場や懐かしのシーンそっくりのラストも嬉しい。
楽しい映画なのですが、どうにも中高生の女の子たちの日常を描く映画って(いや中高生に限らず、幼児から20代あたりまでみんなですが)、個人的に見ていて悲しくなる面があって、見終わってから泣いていました。
マダム・イン・ニューヨーク
https://filmarks.com/movies/57682/reviews/43121811
傑作ですね! 「インドの主婦がニューヨークで英語を勉強する話」と聞いたときにはまるで予想もしていなかったのですが、インドで英語を喋れないということは、たぶん社会的にひどく劣った立場に身を置くことになるのでしょうね。序盤で描かれるその苦しさもじりじりとくるし、英語を学ぶことがまさに尊厳の回復へと繋がっていくという筋、そしてニューヨークに暮らす英語があまり話せない人々というアウトサイダーたちの交流のなかで次第に互いの傷を癒しながら絆を深め、心が解き放たれていくさまがすごくいい。互いに通じないヒンドゥー語とフランス語でなされる会話も美しいです。
映画だと『ベティブルー』、『お熱いのがお好き』、『エマニエル夫人』、『赤ちゃん教育』、『フランシス・ハ』などが好きです。
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