『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』
トーニャと元旦那ジェフとの仲が悪くなってから事件までの流れは黒澤明の『羅生門』ともコーエン兄弟のサスペンス映画のような展開にも映るクライム・サスペンス。負の連鎖がスパイラルとなり悲劇に向かう。
同系統のダークなアスリートの映画に『フォックスキャッチャー』があるが、あそこまで不穏でないものの近い匂いはある。その違いとしては、負の連鎖を作り出す元旦那ジェフやショーンらのトーニャに対する身の丈のあわない愛情とドジさ、感覚のズレ。そこにコーエン兄弟の作品的なブラックなコメディセンスがある。
さらにそれを彩る70年代~80年代のポップ、ロックナンバー。ハートの「バラクーダ」なんかはトーニャの闘志にリンクしてたし、実際のフィギュアスケートでも使われたZZ TOPの「スリーピング・バッグ」もあの時代のアメリカの雰囲気にばっちりあうし、エンドロールに流れるスージー&ザ・バンシーズによるイギー・ポップのカバー曲「ザ・パッセンジャー」もトーニャのやさぐれた波乱万丈な人生に同調し、仄かな感動を覚える。
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』
アメリカの女子フィギュアスケートで初めてトリプルアクセルを決め、オリンピックにも二度でたが、それよりもライバルのナンシー・ケリガン襲撃事件で一躍時の人になり、歴史に名を残したトーニャ・ハーディングの半自伝映画。
いやーーーー、素晴らしかった!
ナンシー襲撃事件までのトーニャ・ハーディングの軌跡を追いながら、彼女の光と陰を見事に描いている。いや、光が1/10ぐらいの氷山の一角で後は陰。
母親、元旦那のジェフ、ジェフの友人ショーンと揃いも揃って屑で貧困、労働者的な生活臭が漂う。環境としては悪い環境の中でトーニャが才能でのしあがっていく。
トーニャも才能以外は周りの環境の影響でやさぐれと気性の荒らさ全開。それが表舞台に出るときに滲み出て、競技の審査員の心象を悪くしている。
元旦那のジェフとの一瞬の仲むつまじい時以外は、母親は暴力&罵詈雑言、ジェフもDV、競技に出れば審査員との厳しい目線となにかと敵が多い中をやさぐれと気性の荒らさで切り抜けるトーニャはスケートリンクの花と言うより毒々しい華である。
『スパイナル・タップ』試写
34年もの時を経て日本初公開となるロブ・ライナーの監督デビュー作にして、架空のロックバンド「スパイナル・タップ」のモキュメンタリー。
サシャ・バロン・コーエンの『ボラット』や『ブルーノ』、去年公開した『俺たちポップスター』のロックバンド版。曲もステージングもステージ演出などどこを切ってもポンコツで、そのポンコツさが映画的には面白い。
ドラマーの死とか彼女がバンドの仲をおかしくするとか、数々のロックバンドのエピソードをかき集めるだけでなく、無駄にド派手なステージ演出(HM/HRのバンドのライブが派手になったのはこの映画公開以降)や再結成ブーム(ディープ・パープルやエアロスミス、ブラックサバスの再結成はこの映画の公開以降)、ブラックアルバム(メタリカが1991年に出してる)など後に起こることもこの映画で予言(?)している。
34年寝かせたから色々と笑える映画である。
孤狼の血
血まみれ泥まみれ汗まみれ、この映画では、豚のうんこまみれ、そんなヤクザ映画が好きな人はこの映画を見ましょう笑
皆さんの期待通り、石橋蓮司はちゃんと弄られ役ですし、日本刀で血がプシューってシーンもちゃーんとありますのでご安心ください。
・・・なんて言っちゃいましたが、グロいシーンはありませんし
(勿論、人体欠損シーンはありますが、撮り方がグロさ、怖さ、はあまり無い。白石さんの過去作である「凶悪」の方がよっぽど怖い。)、最後はヤクザ映画にしては珍しく、割と救いのある話(ハッピーエンド)で終わります・・・・・・
普段ヤクザ映画観ない人でも観れるように作られているので、ヤクザ映画の入り口としては良いバランスの映画だと思います。
・・・でも、個人的には、もっとぶっ飛んでて欲しかったんだよなぁあああ。期待しすぎたのかもしれません。
楽しめたのでまあ良いか。
白石監督これからも頑張ってください。
『フロリダ・プロジェクト』
『タンジェリン』でトランスジェンダーたちの『ラブ・アクチュアリー』を見せたショーン・ベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト』は前作とはタイプがまるで違う少年・少女とシングルマザーの日々の物語。型としては小津安二郎の『生まれてはみたけれど』や『お早う』タイプの子ども視点にタトゥーだらけでプータローのだらしないシングルマザーとの底辺ギリギリの逼迫生活プラスそれを厳しくも優しい眼差しで見つめる支配人、といった生活臭プンプンのドラマ。『ラブ・アクチュアリー』から一点、ダルデンヌ兄弟やケン・ローチのようなドラマをフロリダのディズニー・ワールド近くでやっているというのがポイント。
2008年に発生したサブプライム住宅ローン危機の余波に苦しむ貧困層の人々の物語とかまさにケン・ローチ的なアプローチ。前作の『タンジェリン』はトランスジェンダーというのもあったが、メインキャラクターらの根っ子の問題に経済の困窮もあった。
そして、今回の『フロリダ・プロジェクト』。まさかショーン・ベイカーがケン・ローチの弱者への優しい眼差しを引き継ぐとは……おどろいた!
『万引き家族』
東京のマンションの谷間の一軒家に住む柴田家。そこにひょんなことから一緒に住むことになった5歳の少女……という滑り出しから見せるヒューマン&クライムドラマ。
中盤で主要登場人物に関するある出来事からこの家族の正体が分かる。
リリー・フランキーを父親とした祖母、妻、妻の妹、10歳ぐらいの長男に父親が拾ってきた5歳の少女という家族。一軒家ではあるが収入源は父親の日雇いの仕事と妻のクリーニング屋のパートで、一番の安定収入は祖母の年金。あと妻の妹のいかがわしいバイトの収入。これに父親と長男の万引きやせ窃盗が加わる。
基本的には『そして父になる』のリリー・フランキーのパートをクローズアップして、さらに貧困風味に煮込んだ感じ。これに絶え間ないこの家族のぎこちなさこそがこの家族、この映画の本質である。
テーマは家族というよりも幸せの在り方や倫理の在り方にある。幸せに生きるためのやむにやまれぬ数々の行為に見る側は考えさせられる。
『そして父になる』にさらに『誰も知らない』的なダークさがある是枝監督の新家族論。