『ゲティ家の身代金』
偏屈な大富豪爺さんと爺さんの息子の元嫁によるマネーゲームの駆け引き、そして誘拐された孫を誘拐した犯人たちとのやり取り、あと拐われた本人の脱出・囚われの心理、こうしたもろもろの心理戦を楽しみ、また親権、孫の身代金、ミノタウロス像、絵画、情報などの「物の価値」というものが一つの題材になった作品で、心理戦・駆け引きを主としたクライム・サスペンスとしては一級品。
イタリアのシーンでパパラッチがやたらいる辺りはフェリーニの『甘い生活』や『フェリーニのローマ』を匂わせ、またゾンビーズやストーンズなどの音楽も巧みに使って70年代を表現してた。
ストレートなアクションや残虐描写もなくはないけどこの映画を楽しむメインポイントじゃないので、どちらかというと頭を使ったクライムサスペンスだったね。
日本映画試写『明日にかける橋』
2010年から1989年にタイムスリップし、自らの高校時代の出来事に出くわす話。
日本版『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ね……たしかにめちゃくちゃ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と1989年という時代、カルチャー、空気感を出そうと頑張ってた。
1989年がメインの舞台で、主人公が女子高校1年とあって、感覚的には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ミーツ『ぼくらの七日間戦争』といった趣。
色々頑張ってたけど、タイムスリップの理論から未来の自分に会っちゃったり、あちこち過去を変えてたりなー……過去・未来のパラレルワールドがかなり無視されてるし、
後半のある出来事にカオス理論を期待したが、結局ご都合だった。
板尾創路さんの父親の奮闘などいいところもあるが、残念なぐらい穴だらけ。温かい目で見る以外ない。
『万引き家族』パルムドールについて
『万引き家族』はたしかに同監督にとっては『そして父になる』以来のクライムの臭いがする家族映画で、去年の『三度目の殺人』は別物・別枠として、『海街diary』と『海よりもまだ深く』とおとなしめのヒューマン色が強い家族ドラマが続いた後にきたクライム色が強くていろんな社会問題が詰まっていたので監督賞かリリー・フランキーで主演男優賞辺りを獲るのかと思ったら1番が獲れちゃった、という感じ。
大枠の系譜で言えばデ・シーカの『自転車泥棒』やブレッソンの『スリ』や『ラ・ルジャン』で、ごく最近の映画なら『それでも生きる子供たちへ』のエミール・クストリッツァ版や、それこそ『ティエリー・ドグルドーの憂鬱』の対極の位置にある映画だし、あの少年も是枝監督の『誰も知らない』の男の子に被る。歴代の映画史からも色々解釈・咀嚼出来る作品である。