『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』
マーゴット・ロビーのスケートのシーン、エンドロールに映るトーニャ本人のそれとほとんど変わらない。あれは凄い。
それとオレゴンやミネソタとかアメリカの北の方の田舎の風景、労働者・下流層の風景、アメリカのフィギュアスケート界隈の風景などどれも良かった。1975、6年から20年ぐらいのアメリカの時代を一気に駆け抜けるが、基本は80年代の風景なんだよね。
田舎の風景は『スリー・ビルボード』、下流層の風景は『フロリダ・プロジェクト』が被ったかな。その象徴がファミレスのバイトとアパートみたいな住まい、喫煙&飲酒癖かな。
シリアルの食べ方一つを取って見ても育ちの悪さ、環境の悪さが分かる。
そんな中で、トーニャと父親との狩猟のシーンに一服の清涼があったね。
どこの国でもスポーツマン、アスリートって育ち云々があるけど、古くは「巨人の星」、リアルでは辰吉や亀田一家など育ちがよろしくなくても日本では通じちゃうが、アメリカって意外にも家庭の育ち云々を見ちゃうんだね。いや、アメリカじゃなくてフィギュアスケートの世界観がそうなのかな。
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』
トーニャと元旦那ジェフとの仲が悪くなってから事件までの流れは黒澤明の『羅生門』ともコーエン兄弟のサスペンス映画のような展開にも映るクライム・サスペンス。負の連鎖がスパイラルとなり悲劇に向かう。
同系統のダークなアスリートの映画に『フォックスキャッチャー』があるが、あそこまで不穏でないものの近い匂いはある。その違いとしては、負の連鎖を作り出す元旦那ジェフやショーンらのトーニャに対する身の丈のあわない愛情とドジさ、感覚のズレ。そこにコーエン兄弟の作品的なブラックなコメディセンスがある。
さらにそれを彩る70年代~80年代のポップ、ロックナンバー。ハートの「バラクーダ」なんかはトーニャの闘志にリンクしてたし、実際のフィギュアスケートでも使われたZZ TOPの「スリーピング・バッグ」もあの時代のアメリカの雰囲気にばっちりあうし、エンドロールに流れるスージー&ザ・バンシーズによるイギー・ポップのカバー曲「ザ・パッセンジャー」もトーニャのやさぐれた波乱万丈な人生に同調し、仄かな感動を覚える。
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』
アメリカの女子フィギュアスケートで初めてトリプルアクセルを決め、オリンピックにも二度でたが、それよりもライバルのナンシー・ケリガン襲撃事件で一躍時の人になり、歴史に名を残したトーニャ・ハーディングの半自伝映画。
いやーーーー、素晴らしかった!
ナンシー襲撃事件までのトーニャ・ハーディングの軌跡を追いながら、彼女の光と陰を見事に描いている。いや、光が1/10ぐらいの氷山の一角で後は陰。
母親、元旦那のジェフ、ジェフの友人ショーンと揃いも揃って屑で貧困、労働者的な生活臭が漂う。環境としては悪い環境の中でトーニャが才能でのしあがっていく。
トーニャも才能以外は周りの環境の影響でやさぐれと気性の荒らさ全開。それが表舞台に出るときに滲み出て、競技の審査員の心象を悪くしている。
元旦那のジェフとの一瞬の仲むつまじい時以外は、母親は暴力&罵詈雑言、ジェフもDV、競技に出れば審査員との厳しい目線となにかと敵が多い中をやさぐれと気性の荒らさで切り抜けるトーニャはスケートリンクの花と言うより毒々しい華である。
『スパイナル・タップ』試写
34年もの時を経て日本初公開となるロブ・ライナーの監督デビュー作にして、架空のロックバンド「スパイナル・タップ」のモキュメンタリー。
サシャ・バロン・コーエンの『ボラット』や『ブルーノ』、去年公開した『俺たちポップスター』のロックバンド版。曲もステージングもステージ演出などどこを切ってもポンコツで、そのポンコツさが映画的には面白い。
ドラマーの死とか彼女がバンドの仲をおかしくするとか、数々のロックバンドのエピソードをかき集めるだけでなく、無駄にド派手なステージ演出(HM/HRのバンドのライブが派手になったのはこの映画公開以降)や再結成ブーム(ディープ・パープルやエアロスミス、ブラックサバスの再結成はこの映画の公開以降)、ブラックアルバム(メタリカが1991年に出してる)など後に起こることもこの映画で予言(?)している。
34年寝かせたから色々と笑える映画である。
@tacchan
本来なら松坂桃李君の役は綾野剛君辺りがやるべき役でしたが、いつもいつも綾野剛じゃそれ専用の俳優になっちゃいますしね。
@tacchan
この映画は松坂桃李がミソになってますね。東映ヤクザ映画のリノベーションですよ、松坂桃李は。
孤狼の血
血まみれ泥まみれ汗まみれ、この映画では、豚のうんこまみれ、そんなヤクザ映画が好きな人はこの映画を見ましょう笑
皆さんの期待通り、石橋蓮司はちゃんと弄られ役ですし、日本刀で血がプシューってシーンもちゃーんとありますのでご安心ください。
・・・なんて言っちゃいましたが、グロいシーンはありませんし
(勿論、人体欠損シーンはありますが、撮り方がグロさ、怖さ、はあまり無い。白石さんの過去作である「凶悪」の方がよっぽど怖い。)、最後はヤクザ映画にしては珍しく、割と救いのある話(ハッピーエンド)で終わります・・・・・・
普段ヤクザ映画観ない人でも観れるように作られているので、ヤクザ映画の入り口としては良いバランスの映画だと思います。
・・・でも、個人的には、もっとぶっ飛んでて欲しかったんだよなぁあああ。期待しすぎたのかもしれません。
楽しめたのでまあ良いか。
白石監督これからも頑張ってください。
『フロリダ・プロジェクト』
『タンジェリン』でトランスジェンダーたちの『ラブ・アクチュアリー』を見せたショーン・ベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト』は前作とはタイプがまるで違う少年・少女とシングルマザーの日々の物語。型としては小津安二郎の『生まれてはみたけれど』や『お早う』タイプの子ども視点にタトゥーだらけでプータローのだらしないシングルマザーとの底辺ギリギリの逼迫生活プラスそれを厳しくも優しい眼差しで見つめる支配人、といった生活臭プンプンのドラマ。『ラブ・アクチュアリー』から一点、ダルデンヌ兄弟やケン・ローチのようなドラマをフロリダのディズニー・ワールド近くでやっているというのがポイント。
2008年に発生したサブプライム住宅ローン危機の余波に苦しむ貧困層の人々の物語とかまさにケン・ローチ的なアプローチ。前作の『タンジェリン』はトランスジェンダーというのもあったが、メインキャラクターらの根っ子の問題に経済の困窮もあった。
そして、今回の『フロリダ・プロジェクト』。まさかショーン・ベイカーがケン・ローチの弱者への優しい眼差しを引き継ぐとは……おどろいた!