ドクタースリープの最後のほう(ネタバレ注意!)
ドラマ版のホテルの最後(ボイラーを忘れてた!)は原作と同じで、それを再び持ってきた『ドクタースリープ』はキューブリックが迷路でお茶を濁したホテルとの決着をようやくつけた映画という感じ。
この脚色が巧いのは成人ダニーが父親と同じような飲んだくれのダメ人間になるんじゃないかという不安を抱えているところで、ホテルに行ってあの時の父親と同じような行動をして、でも最後はキューブリック版『シャイニング』がやらなかったキング版『シャイニング』のラストを採用することで、成人ダニーはホテルでのトラウマ記憶と共に自分の中の悪い父親を葬る。
映画の最初の方に成人ダニーが一夜の関係を持った母子のエピソードが出てきますが、それはおそらくダニーが自分の中のジャック・トランスに怯えていることを示すためでしょう。
これはキューブリック版とキング版の折衷案としてすごくよく出来てると思いましたね。ダニーが二つの『シャイニング』を精算してアブラに希望を託す物語とすると、二つの『シャイニング』があったからこそアブラの今があるんだ、みたいな話になるので。
ドクタースリープ追記(ネタバレ注意!)
幽霊師匠のハロランさんはキューブリック版だとほとんど無用の存在ですが、原作とドラマ版だとその能力のせいで孤独と恐怖を強いられているダニーを真に理解してくれた唯一の存在。これもキューブリック版だとあまり意味を成さないのですが、ホテル時代のダニーは未来を教えてくれるもう一人の自分をトニーと呼んでいて、映画版『ドクタースリープ』ではこのトニーのポジションに事件で傷心のダニーの心のよりどころとしてハロランが収まるわけです。
つまりそれはダニーが無意識的に作り出した理想のもう一人の自分で、ハロランさんならきっとこう言うだろう、という風にしてダニーは恐怖の記憶と戦ったりアブラを救う決意をしたりするのですが、それはすべてダニー本人の無意識の意志の表れなんです。たぶん。