『ナラタージュ』
ヒロインの有村架純はほとんどでずっぱり。アップが多く、彼女を観る映画と言っても過言じゃないが、それに耐えうる女優であり、またレベルが格段に上がった。映画の企画自体は2006年ぐらいからあったらしく、早期実現だとしたら恐らく長澤まさみ主演だったとも考えられるし、現在に至るまでのあらゆる女優が浮かんでくる。つまり、そこはOKだったが、
問題は主演男優のキャスティング。原作者は渡辺篤郎を想定して書いていたようだが、10年前でも現在でもそれはさすがに渋すぎる。阿部寛や福山雅治辺りが実はちょうど良かったのかもしれないが、是枝組の印象が強い彼らではいろんな意味で厳しかったであろう。
そこで松本潤だが……ちょっと軽かった気もするが、ちょい老けメイクと地味なヘアスタイル、眼鏡でかろうじてクリアだったかな。
このキャスティングも原作とはイメージが違っただけに冒険だったんだろうが、そういった意味でも見ていて面白かった。
あと小野役の坂口健太郎も見事で、松潤と有村架純の間で揺れる感情は素晴らしい。
『ナラタージュ』
これが意外と良かった!
基本は松潤と有村架純の「高校教師」的な不倫恋愛に、有村架純と坂口健太郎のなんとなくからの恋愛が重なっている。
原作の人も映画好きなのか映画を観るシーンやDVDを貸したりするシーンがあるが、そもそも大枠の不倫恋愛が成瀬巳喜男の『浮雲』へのオマージュのような作品であり、『驟雨』を思わせる重厚な恋愛に仕上がっている。
不倫恋愛としては目新しさはないが岸谷五朗と深田恭子の『夜明けの街で』のような古くささは不思議となく、携帯やちょっとした仕草からの感情の縺れを描いており、繊細で重みを感じる恋愛を見せてくれる。
大学時代の回想録が中心となるが、間にさらにその前の回想も挟み「回想の回想」というあまり良くない手法をやっているが、その「回想の回想」はワンポイントでサラッと入れるので、それはそれで悪くない。
『つやのよる』とか『ピンクとグレー』のような実験作は良かったが、ここに来て、行定勲の真骨頂を見せつけられた気がする。