Premalu (Malayalam/2024)をオンラインで。 

ファハドやディリーシュなど錚々たる顔ぶれの製作陣。HYDのハイテク企業で働く順風満帆の女子と、色々ダメなGATE(工科系大学院適性試験)勉強中の男子とが出会い、笑える友人たちや恋敵とのインタラクションを経て相思相愛になるまでのロマンティック・コメディー。Bangalore Daysからちょうど10年後にこういうものを見ることになるとは。否応なしに先日のL2と比較してしまった。どちらも他映画界のアクション大作などに出演した経験から養分を貰って製作・監督になったと思われるけど、アウトプットされたものが正反対。断然ファハドを支持する。本作で初めて知ったことではないが、ともかくインド人は友達の友達程度のか細いつながりでも臆せず頼って他所に出かけていく。そんな弱い繋がりでも案外面倒を見てくれる友人はいる。そして言葉の通じない異郷でも、同胞のコネを頼って大胆に出稼ぎに行く。セーラム、HYD、チェンナイ、ロンドンと移動する主人公を見て改めて実感。フライドチキン屋のバーガーで思い切り腹を壊すあのエピソードは意味不明。脇役がいちいち個性的。

『教皇選挙』(USA, 2024)を池袋TOHOで。 

ポリティカル・スリラー好き、「ヴァティカンもの」好きとしては見ないわけにはいかず。なぜ両者が好きなのか自問自答するのだが、どこまでも大人の世界だからなのだと思う。瞳キラキラの子供が持つことのできる抽象的な理想主義や「正義が勝つ」史観から遠く離れた大人げない大人の事情の中で最適解を探すのがポリティカル・スリラーだし、それが重厚な舞台装置と様式美の極みといえる装束で、主として言葉の応酬による粛々と繰り広げられるのが「ヴァティカンもの」だから。キーとなる人物の身体性についての説明は遠回しですぐにはピンとこなかったけど、アルダナーリという便利な語があるなと思った。アルダナーリはむしろ完全性を示すものであるが。公式サイト解説は前教皇の先見に重点が置かれていたが、むしろイギリス出身首席枢機卿ローレンスへの神からのメッセージの方が心に残った。前教皇から「羊飼いよりも管理者」向きと言われ、自身もそう信じていたローレンスが、「ヨハネ」という名を密かに心の中で温めていて、それに向け一歩踏み出した際に神の劫罰のようなビッグバンが起き、目を覚まさせるくだり。

特に好きになれない、繰り返し見たいとも思わないけど、妙に語りたくなるフックの多い映画というのはあるものだと思う。

Kaathal – The Core (Malayalam/2023)をオンラインで。 

ジヨー・ベービ新作でマンムーティ主演・製作のLGBT系映画というので怖いもの見たさで。田舎町に住むマーチュとオーマナは19歳の娘のいるローマン・カトリックの熟年夫婦。マーチュは左翼政党に推挙され地方議会の補欠選挙に立候補する。しかしほぼ同時に妻のオーマナは離婚裁判を起こす。インドのヒンドゥー・クリスチャンの離婚には裁判所の手続きを経る必要があり、本人の同意のみでは離婚できない。立候補したマーチュには不面目極まりない事態で、周りも困惑する。そして離婚裁判はマーチュがゲイであることを容赦なく炙り出していく。LGBTと言ったって誰もがビキニのマッチョじゃないし、耽美系美青年でもない、当たり前のことをマンムーティの演技によって前面に押し出した。裁判中に弁護士が言う「インドでは同性愛者の8割が異性愛者と結婚している(そして不幸な家庭を生み出している)」と言うのが本作のコアか。そしてそれを行っていたのはマーチュだけではなく父もそうだったかもしれないということが暗示される。妻の解放は夫の解放でもあるというのが美しい

Meiyazhagan (Tamil/2024)をNTFLXで。 

舞台はタンジャーヴールと、そこから30kmほど離れた小村ニーダマンガラム。1996年に少年アルルモリは心ならずもタンジャーヴールの先祖伝来の家を出て家族とともにチェンナイに移り住む。家族はトラブルにより家を手放さざるを得なかった。2018年のチェンナイでアルルは教師(あるいはコーチ)となり、所帯を構えて暮らしている。年の離れた従妹の結婚式に招待されて20年以上ぶりにタンジャーヴールを訪れるアルル。式場で親戚の若い男に親しげに声をかけられるが、誰なのか思い出せず、誰何するタイミングも失って若い男と長い時間を過ごすことになる。『’96』で省略されたヒーローの突然の引っ越しのモチーフから発展させ、全く新しい作品が生まれた。プレームクマールらしいノスタルジー、繊細な言葉のやり取りと心理描写だが、恋愛要素をほぼ剥ぎ取り、より一層文芸的な雰囲気になり、『Nanpakal Nerathu Mayakkam』を思い出した。周りにある全ての人間と動物を愛してやまない天使のような存在でありながら、最後まで謎めいた雰囲気を保つカールティが見事。

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