美しい星 その4
そしてその道中にこそリアリティがあった。地球温暖化という地球規模の現象よりも、都心を走り次々と通過していく夜の街に美しさを、行き交う人々に美徳を見出す。躍起になって地べたから、実際に見えもしない地球を救いたかった。一番美しい筈の地球よりも、何でこんな近い所に呆気なく、地球とは関係ない場所に、浮ついているが美しい光に溢れていた。そこに一番リアリティがあった。
地球規模の問題よりも、眼前に広がる夜の街にこそリアリティを感じてしまう。
そして肉体のくびきから解放された父親のような者は、UFOの大きな窓=画面から宇宙から地球を覗いてみる。あそこまで美しい巨大なブルーが眼前にあるのに、探してでも一番見たかったのはポツンと突っ立っている集団。あぁ、グッタリしている血色の悪い人間がいるね、それを皆が支えてるね、あの集団が綺麗だな、美しいな、あれが家庭なんだね。
大きな大きな容れ物の中に、遠い遠いところから、やっと覗けた、美しい星たち。
美しい星 その3
終点を知らせるのは冷徹な相手であったが、志が高く自分の理想の為に行動出来て、世論を操作する手段を怠らない。他人を操作する事こそが、理想へと近付ける。父親はそういった事は出来なかった。
冷徹な相手との対決は、テレビ画面の取り合いが争点で、この勝負に勝った者は画面を支配して次へと歩を進める。冷徹な相手は主人公ではないので、フェードアウトする。遠い未来は見えないが、近い未来を暗示する政治ニュースだけが流れる。
環境問題と国政というマクロ視点から、家庭というミクロな方に向いていく。この映画は要素を削いでいき、地球を削いで家庭を浮き彫りにしていく。
削いで削いで残った家庭から、父親は肉体の限界から病床に伏して、やっと娘との告解を互いに遂げる。家庭もまた、今まで父親を支配していたと言えて、家庭自身がそのくびきからの解放を、花道を飾る為に最後のアクションを起こす。
美しい その2
然し、テレビを見ている人間の真に迫らない。それはテレビで何度も見掛けるような、溶けて崩れる氷の映像では見慣れた光景だ。フリップを持って、遠いところで干ばつした場所の説明をされても、リアリティを感じない。自分の持ち時間の最後に、変なポーズをするオッサンが珍しいから画面に注目するだけ。
彼は自分を自由に操作出来るようになったが、世論を操作する事は出来なかった。
余りにもマクロな視点で語るリアリティの無い気象予報士のオッサンは、もっと重大な環境問題に目を向ける必要がある。それは家庭という環境で、温暖化なんぞ目じゃない。彼は只々のオッサンではない、父親なのだ。
父親を自覚し始めた彼は、娘の異変の原因を調べるが、旅先で青あざを付けて帰って来る。青あざは後を引き、冷徹な視線を持つ相手との対峙の時に肉体の痛みとして、人の親として妥当な痛みを感じさせる。怪しいボタンから始まる痛みは、人間としての肉体が今迄忘れていた限界と終点を告げる。
美しい星 その1
ヘラヘラした気象予報士のオッサンが主人公で、彼はテレビの画面の支配下に置かれている。自分の意思とは違う誰かの操作の下にいる。彼が映っている画面に誰かのテロップが重ねられ、彼が映っている画面を誰かが操作して別の画面に切り替わられ、誰かから電話が掛かり誕生日会から離席させられ、彼は操作されている。
自分の勝手が許される範囲で愛人を作り、情事帰りの夜道を車で走ると、未知の光に導かれ覚醒を果たし、彼はテレビの支配から解脱する。画面のくびきから解放され、初めて気象予報士になった意味を自覚し行動を始める。その行動は、メインキャスターの人から何度も話題を振られる地球温暖化の件だ。
本気で地球温暖化を取り上げて、テレビ側の要請とは違う動きをし、テロップと関係なく自由に語り、自由に映像を差し込み、テレビの画面を通して外部へと何度も訴えかける。
美しい星
佐々木蔵之介VSリリー・フランキーの所で、「機動武闘伝Gガンダム」の東方不敗のデビルガンダムを使った思想を連想する。
政治家が関わる部分は「寄生獣」を連想、佐々木蔵之介は「寄生獣」にまんま出てきそうな造形よな。
最後リリー・フランキーが入ったUFO内部なんかは、ホドロフスキーの映画っぽいなーーー、奥行きの出し方とかな。
橋本愛が新幹線に乗って金沢に行くときに、車窓から見える電線入り混じる何の変哲も無い街景色に、岩井俊二イズムを感じた。ふわふわして浮ついた景色。
橋本愛がミスコンで、他のモブと一緒にジャンプして可愛い仕草をさせようとする時、右端にいる橋本愛の合成感。一人だけ別世界で、完全に異物で、それはそれは恐ろしいほどに美しい。あの橋本愛だけグリーンバックで合成したかのような存在感。「淵に立つ」の浅野忠信を連想。
火と水とで属性が分けられるように見えた。まず火星人と水星人が対立。火星人リリー・フランキーに如何わしい水を飲ませて、水のペットボトルで家が埋まる。水星人こと亀梨和也は、サウナで上半身裸になって蒸気熱を受け汗を流す。まぁ、あんまりソコに共通点は見出せないか。
ネタバレ⚠️皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
鋼鉄ジーグファン女子の親父が殺された事を、何で主人公が隠しているのか分からない。例えば主人公自身が殺したから隠すという物語なら分かるけど、そういう訳ではないし。彼女にショックを与えない為と言えるが、どうもソレを織り込んで演出していない。だから、デートシーンとかが非常に歪。精神に異常をきたしているのだから仕方ないが、ヒロインの動向に若干モヤモヤさせられてしまった。主人公の自宅で鋼鉄ジーグ鑑賞中に、主人公からエッチな事に移ろうとしたら彼女が発狂してしまう場面と、ショッピングセンターの試着室で彼女側が誘惑してセックスする場面があるんだけど、ここ矛盾していてモヤモヤ。彼女にら性交渉によるトラウマがあると思ってたから。あとデートシーンの最後に、今まで隠す意味あったのか分からない殺された親父の件を明かす場面もあって、余計にモヤモヤする。オマケに路面電車を素手で止める場面に繋がって、正体がバレてしまうのも、いちいちモヤモヤ。あと、テロの爆発が見えてから何か行動に移すのかと思ったら、爆発現場に行かないし、物語を動かさない。ホントここら辺がチグハグ。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
やはりヒーローと対峙するヴィランの存在を際立つようにしないといけないっていうのは分かる。だが、アクの強いキャラを演出して作り出すのに時間を掛け過ぎている。このヴィランのエピソードを挟み込む事で物語がなかなか真っ直ぐに進まない
物語を停滞させるようなヴィランとは言えるが、実は一番光っている。急に現るオカマちゃんとカーセックスしてからの銃撃戦が最もスリリング。主人公のエピソードを掘り下げてヒーロー誕生譚に集中すれば良いと思うが、今作はヴィラン周りが愉快だったりして複雑。
分かりやすいヒーロー活躍を描く胸熱なシーンを外さないのは良いが、どうも挟み込むタイミングが上手いと思えず。なんだか今思い出したかのように差し込まれる。まぁ、シチュエーションは悪くないし、主人公が何処か遠くへ行こうとする所から、振り返って駆けつけるのは良い。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』イマイチ。コレ“鋼鉄ジーグ”じゃなくても成立してしまうのが痛い。マジンガーZやゲッターロボを代入しても問題ない。単にタイトルに組み込まれているアニメのファンが登場しているに過ぎない。該当アニメの存在や要素が映画に余り反映されていない。あと長いし退屈。
映画内で“鋼鉄ジーグ”というコンテンツの立ち位置を最大限利用する気がないのが難点。鋼鉄ジーグだから出来るアイディアに乏しい。せめて鋼鉄ジーグの主題歌を原曲フルで流すくらいの気概は欲しい。鋼鉄ジーグを愛している女性は出るが、この映画自体から愛を然程感じられない。
冒頭の追走劇からして下手で、いわゆる位置関係の示し方と、被写体に近過ぎる撮り方が不味い。オマケに追走劇から物語を転がさないのも駄目で、追走劇のあと普通に家へ帰ってしまう。サスペンスを持続させる気がなくて、ハナから頭打ちに。発端になる追っ手の存在が希薄。
せめて必殺技くらいはアレして欲しい。何故か、あのタイミングでヴィランがアレを披露しちゃうの理解に苦しむ。
ワンワンの登場から、利用の仕方と、終わり方は真っ直ぐちゃんとしていた。
メッセージ
リピート鑑賞に耐えられる強度が欲しい。構造を理解した上で見返すと一層楽しめるように。でもリピートしても余り印象変わらないと思っていて、それは序盤の初遭遇の行程が馬鹿正直に長くて段取りをちゃんと踏むから、もう一度見始めたら恐らくは、またこのやり取りから始めないといけないのか、そんな印象が強いだろうから。
リピート鑑賞に耐えられる強度が低いと思う原因は、冒頭と、最後でしか韻を踏んでないから。途中途中で挟み込んだり、サブリミナルに仕掛けてくるが小技に過ぎない。大技を掛けるに至る道筋の提示はするが、提示に過ぎない。ここら辺難しくて、一番効果的に大技をどうキメるかによる。
どうしたら、大技がキマるのか。映画なのだから、画で提示するべきだと思う。然し、その画を、決定的な画をどうやったら具現化するのか、ここら辺チンケな俺には到底説明できない。ただ、希薄なのは肌で感じるだけ。
あとメンドイと思えるのが、論理的に筋を通すべき所は通っているという点なのだ。理屈はあるし、理由もある。ここが厄介で、やる事やっていて完全に駄目と言い切れない。だからこの映画は角を立てずに、丸く収めていると言える。
『メッセージ』超絶“普通”だった。宇宙船の形が丸くて曲線なだけに、映画も角を立てずに要領よく仕上げて、丸く収めている。こういうのをシャマランに撮らせたら良いんじゃないかと思えてしょうがない。彼ならば多少変な角を立ててしまっても、感動させてくれるはず。
主人公エイミー・アダムスがソレに“自覚”してからをジックリ描いて欲しい。悩んでいく行程と、決意までの期間が短い。この期間は重要だと思う。時間が題材なんだけど、時間の配分が上手くない。異物との接触までも妙に長い、手順通りにやり過ぎ。
ある仕掛けによる活路の提示の仕方も、ただの答え合わせに落ちていて致命的。運命を感じず、理屈っぽさが強い。時間が閉鎖されている円環構造の理屈は、だからこそ彼女は崇高なのだという事の理屈は、まぁまぁ分からない事もない。その理解から、感動に至らないのが厳しかった。