幻の光鑑賞。感想、まとまらなくて長くなっちゃった。 

どうして夫が死んだのかわからない。決着がつかないからこそユミコの時間も心も止まったまま。誰にも言わないまま抱え続けた喪失感は、何年も経って新しい家族とそれなりに上手く過ごし始めていても漠然と抱える不安として彼女の心に巣食っている。ストーリーも感情も基本的には平坦だけれど、あの寒々しくて灰色の空と海が、その不安…むしろその"漠然"という部分にマッチしていて少し怖くなる。どこを切り取ってもバッチリと写真のようにキマっている構図と、潮騒や嵐の荒々しい音で、感情の重さが増す。音楽も素晴らしく美しくて、古い家屋や街並みの姿と合わさって(初めて観る景色なのに)懐かしさと切なさの間みたいな不思議な気持ちになった。音といえば鈴の音。ユミコと前夫の何でもない幸せだった時のエピソードが序盤にしっかり描かれているので、その幸せとそれがなくなったという虚が鈴の音を聞くたびに想起される。平坦と上に書いたけれど、同じように夜中に響くノックの音でも、セットで呼び起こされる記憶がちゃんとあって、作りがめちゃくちゃしっかりしてる。すごい。

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幻の光鑑賞。続き。 

「誰にでもそういうことはある」今の夫が、ユミコのおそらく本人にもよくわからない大きな灰色のわだかまりを、流さずに受け止めてくれる人で良かった。この先も時々は思い出すかもしれないけど、こういう人とだったら前に進めるようになるのだろうとわかる終わり方なのもホッとした。
その他雑感。日本海側の人に怒られちゃうかもしれないけど、もうちょっと南国みたいなところだったら、せめて太平洋側だったらああいう心持ちにはならなかったろうなーと思ったりもする。そんな私は海なし県在住者です。
朝いつものように出かけた人が戻らないかもしれない。夜中のノックの音が、あの日と同じように響く。あの不安はわかってしまう部分があって、少し苦しくなる。

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