Aruvi (Tamil - 2017)をYT有料配信で。
前評判の高い一作だったので期待が大きかったが、感想はまだまとまり切らない。インド人の好きなrawな手触りと、高度に寓話的なサタイアとが両方あって、途中でテクスチャーがガラリと変わる。なので見ている方が、おっとっととバランスを崩す感じ。根本的には解決していないのに社会問題のスポットライトが当たらなくなってしまったHIV保菌者/発病者の問題を持ってきたのは評価できる。それにTV業界のセンセーショナリズム指向や女性への性暴力、拝金主義社会への批判など織り込まれて盛りだくさん。トークショーに出演したヒロインがその話術と凶器とによってスタジオの人々を文字通り虜にするプロセスは見事。小さなスタジオ内にすら歴然とある社会構造の分断が徐々に消えてゆくある種のストックホルム症候群を活写する。ヒロインが消費社会の良き市民像をこき下ろす長々とした演説の中で、「家族がそろって映画に出かけ1000ルピーを費やす、その映画は空っぽなのに」というくだりは痛烈。それでもやはり、この映画は軽やかで幸せなエンディングを観たかった気持ちがある。