グラフィックノヴェルという名のアメコミ原作を買うかどうか迷って、ひとまず映画版を見てみた。デイヴィッド・クローネンバーグがグロ表現で名高いのは聞かなかったことにして。まあしかし、本作に関してはどうってことなかった。問題の「暴力的過去」はコミックではこってり描かれるらしいが、本作は台詞で述べられるのみ。粗暴な凶悪犯をあっという間に返り討ちにしたことから、平凡な主人公の素性についての疑いが身近な人々の間に沸き起こる。本作の場合それがロジックあるものだけど、インド映画の場合、ヒーローが訳もなく強くて当たり前という通念がある。そこをどう処理するかはリメイクの映像作家の腕の見せ所だったんだなとわかった。スター映画のオーラを保ったままで、悪の勢力の来訪を波状攻撃に変え、コントラストを強調し、悪の過去にも強いエモーション要因を加えた。そして過去の封印の理由に社会的要因が付与された。本作はさらりとした一筆書きのように主人公の行動と表情の変化だけから実存的不安を炙り出す。ちょうどパドマラージャンのAparan(1988)のように。