茲山魚譜 -チャサンオボ-(2021、자산어보)を韓国文化院で。
1800年の朝鮮。基督教徒であるため朝廷を追われた丁三兄弟の長兄丁若銓が島流しで黒山島にやってくる。朱子学をベースにして西学も旺盛に取り入れた若銓が流刑地で初めて関心を向けたのは、島の人々の生活誌の記録というジャーナリスティックなテーマと、魚類の分類・詳説の自然科学分野だった。後者の記録に当たっては土地の漁師昌大の助けによるところが大きい。この昌大は、本土の商いをしている両班の庶子でコンプレックスの塊。この男の、独学ゆえの隔靴掻痒の悶え、耶蘇教を奉じる若銓への軽蔑と憧憬の間で揺れる心の芝居が素晴らしい。若銓とその世話を焼く未亡人との間の交情も、実も蓋もなく言えば現地妻なのだけれど洒落た描写。昌大と海女をやる幼馴染との間の関係もさり気なく詩的に叙述する。念願かなって科挙を受け役人になってからの昌大の物語はいつものパターンで、史実に沿うとそれ以外の展開がないのだと思う。弟若鏞が配流を解かれたので自分も呼び戻しに備え本土に近い島に移るというのはよく分からなかった。冒頭の3兄弟の運命の分かれ道も歴史の知識があれば鮮明だったはず。