Nasir (Tamil/2020)をYTで。
WeAreOneオンライン映画祭の一環としての配信。提供元はムンバイ国際映画祭。割と珍しいタミルの芸術映画で、なおかつ非常に稀なタミルのイスラミケイト映画。コインバトールで伝統的なサリーショップの店員として働くムスリムの男が主人公。この貧しい中年男の砂をかむような数日間が描かれる。エンディングでそれは彼の生涯の最後の数日間だったことがわかる。つまらない暮らしをしているように見えて、詩心があり、また熟年になっても妻を熱愛している。そして実子ではない知的障害のある子供を引き取り育てるという篤志家的一面も。この男に降りかかる運命の無残を理解するには、コインバトールのコミュナル紛争の歴史的事実と、タミルで勢力を広げようとしているヒンドゥー・ムンナニについての知識が要る(画面中に何度か登場するガネーシャ像の意味合いなど)が、外国の映画祭、いやムンバイ映画祭でも、観客にそれを求めるのは多分無理だと思う。かといって、事前にそれをレクチャーしてしまったら感銘を削ぐことになるだろう。このあたりが、作品の文脈の解題と映画的なライブ感とを巡る難しい問題。