この世界の片隅に(2016)をNTFLXで。
太平洋戦争を題材にした映画作品の例にもれず、本作も戦争責任や植民地支配責任を描いているのかどうかなどの点で封切り時に議論があったらしい。まあしかし、これはそういう観点から称揚したり断罪したりする作品ではない。劇中でヒロインを「普通の人」と形容するシーンがあるが、そういう普通の人が担った時代精神を描くことに注力したものだ。それは漫画で「坊ちゃんの時代」が行おうとしたことに近い。「普通の人」の幅は若干広めにとられているが、その度量は割と広い。世界の中での日本の立場については理解が及んでいないかもしれないが、目の前の日常生活における出来事への対応は、割と柔軟で優しさがある。戦後の民主主義は戦前の全否定から出発し、明治以降の戦前を暗黒時代として描くことに没入したが、良きにつけ悪しきにつけ、日本の精神史は敗戦で全く断絶することなくなだらかに連続的に持続してきたのだということを、極限の時代の中の普通の暮らしと普通の気持ちを丹念に再現することで証明しようとしたのではなかったか、そのように感じられた。