『タゴール・ソングス』(Japan/2020)を試写で。
いい意味でのセンチメンタルなドキュメンタリー。コルカタ、ダッカにタゴール・ソングを歌い継ぐ人々を追い、タゴールの足跡をたどり日本にも。インドだけでなくバングラデシュの国歌がタゴール・ソングだというのは知らなかった。すごくいい歌だ。パンジャーブもベンガルも国や宗教で分断できるものではないというのがよく分かる。特にベンガルの方は。ベンガルの文化は、タゴールとサタジット・レイという巨大な支柱を持ち、今でも人々は何のてらいも躊躇いもなくそこに寄りかかって生きている。それは懐古趣味というよりははるかに強く、現代の人々がよって立つ文化的地盤となっている。こうしたものを持つ民族が他にいるだろうか。画面に現れる人々は目まぐるしく変わり、インドかバングラデシュかも曖昧になり、車窓から眺める景色のように通り過ぎていくが、歌の方は幾度も繰り返されて心に染み入っていく。20世紀の結構末まで、インド世界と向き合う人の入り口は、物理的にも精神的にもベンガルだった。あの空気の中に沁みこんだ文学と憂愁の世界が、日本人の手でスクリーンに焼き付けられたのは喜ばしい。