Anonymous(UK - 2011)をYTで。邦題は『もうひとりのシェイクスピア』。
ある種の芸道ものとして楽しく見られた。かなりの時間を割いて再現されるエリザベス朝時代の舞台の様子が素晴らしい。まさに演劇とは、コンセプトやストーリーではなく、役者の息遣いと雄弁、綺想を凝らしたビジュアル、インタラクションという言葉では追いつかない程に騒々しい客席との野卑なやりとりによって活性化されるものだというのがよく分かる。教養主義の誇示と中産階級の鼻持ちならない社交の場と化した現代の演劇とのあまりにも違う在り方が衝撃的。この芝居のシーンだけずっと見ていたかった。なんかこう、イギリス映画のエリザベス朝ものをもっともっと見たくてたまらなくなってきた。それに比べると、舞台の外で繰り広げられる宿命の物語はいまひとつパキッとしない冗長なものに思えてしまった。主役が誰なのか、誰に感情移入すればいいのか、絞り切れないためにノリが悪い。劇作家ベンか、オクスフォード伯か、エリザベスか、ロバート・セシルか。それにしてもシェイクスピア別人説というのは、学会の主流ではないものの、かなり根強くあるというのは初めて知った。