大いなる自由 ※当方による下品な表現アリ
第二次世界大戦後の西ドイツ。男性同性愛を禁じる憲法175条によって、強制収容所から直接刑務所へ送られたハンス。同条違反により何度も刑務所へ送られる彼は同性愛者嫌悪(当時はこの反応が普通だろう)のヴィクトールと長い年月をかけてかけがえのない友情を築き、互いにとってなくてはならない存在だと気がつく。
冒頭のトイレちんしゃぶ描写が汚えと耳に挟んだので見に行ったが、性愛を親愛が超える非常に趣深い映画だった。
何が起こったか、何を思ったかを直接台詞にすることなく、表情と撮影で読ませる。久しぶりに映画らしい映画を見た。
ハンスが収監された3つの時代が組木細工のように組まれ、二人の関係を情緒豊かに知らせる。
憲法改正により釈放されたハンスがゲイバー『大いなる自由』にて、地上地下ともに同性愛を謳歌する彼らに背を向け、防犯ベルのけたたましい音を聞きながら煙草を土産に待つラストは非常に感慨深い。
ヴィクトールがハンスを支えたように、ハンスがヴィクトールを支えようとする。年老いたからこそ辿り着く悟りのような諦観のような。
大いなる自由 ※当方による下品な表現アリ
恋人を自殺によって失った悲しみを受け止めるための抱擁。薬物を体から抜く苦しみを和らげるための抱擁。
ハンスとヴィクトールは性的な関係を結ぶが、互いにとって互いが性愛の対象というよりは、信頼と親愛で結ばれたのではないか。
監獄というホモソーシャルな環境下だが、彼らの関係はホモソーシャルもしくはホモセクシュアルではなく友情だと考えるのは、些か美化しすぎであろうか。
ゲイバー地下のフリースペースは、海外では一般的な仕様と聞く。それにハンスは男子トイレでの性的接触を頻繁に行っていたことを考えれば、あの形態の場も彼には問題のない場であったはず。
自分を縛り付け、恋人を死に追いやった憲法の改正。唐突に知らされ、与えられた自由は、彼にとって居心地の悪いものだったのかもしれない。
懲罰房で灯るマッチと煙草の火。肌に刻まれる墨。寒空の下、覆った毛布の内側で触れる指。
撮り方が非常に好ましい一本だった。