チャイコフスキーの妻鑑賞。続き。
ピョートルの為に離婚してやってくれとみんなに言われて、ピョートルの為なら何でもしますとも言うけれど、離婚はしない。「何でもします」と「離婚しない」に、彼女の中では矛盾がない。
そういうところも怖いけれども、他の男との間に生まれた息子にピョートル・ペトローヴィチと名付けるのも、彼女の中にピョートルと家庭を築いて暮らしている幸せなヴィジョンがあるのもだいぶ怖い。しんどい狂い方だ。それでも、ピョートルにとっては悪夢に違いないけれど、アントニーナは悪妻と呼ぶにはピュアすぎるなぁという印象になった。悪意がないから。
ロシアが誇る偉大な音楽家が、時代や国によっては犯罪だし、今のロシアでも良しとはされていない同性愛者だった。ピョートルの性的指向は公然の秘密で、仲間も家族も知ってるし許されていて、アントニーナの家庭よりよほど互いに対する理解と受容がある。そういうところが、「同性愛は伝統的な家族という価値観を脅かすからよろしくない」みたいな今のロシアの政策に対するカウンターに感じられたのも良き。