『酔いどれ天使』(1949)をDVDで。
昔浴びるようにモノクロ日本映画を見ていたと自分では思っていた時代にも、どうも戦後の40年代後半のものはスルーしていたようだ。これも初見。50年代のものとは違い、ここにはダイレクトな焼け跡文学がある。結核を患い自暴自棄になったヤクザと気概あるスラムの医者という、今日の目からするともう類型的で見ていて気恥ずかしいようなキャラクターを、芝居力でねじ伏せて見せる。そしてのちの香港ノワールにも通じるようなアンダーワールドの粋の世界(焼け跡なのにもかからわず)も見事。本作、『野良犬』から『天国と地獄』の山崎勉まで、黒澤は犯罪者の瀬戸際での劇場の迸りを描くことに特別な情熱があったように思われる。