あと観てて凄いなぁと思うのは、あのリアルな生活感だ。江戸時代の下級武士の日常が凄くリアルっぽい(本当にこんな感じの生活だったのか?は知らんが)。現代人の日常を江戸時代にトレースした「ウソ」なのか。その辺りは全然わからんが、日常風景を映してるだけでもずーっと観れてしまう。
だからなのか、私を含めた一般庶民の観客たちは知らぬ間に主人公に対して「感情移入」してしまう。映画の中の主人公の生活する時間が、観客とシンクロする。こういった映画も「表現」と呼んでも良いんじゃないか、と個人的には思う。確かに、この映画は観客の深層心理に「キズ」を残すことはしない。でも日本人ならおそらくわかるであろう「何か」を残していくんだよね。俗なエンターテインメントにも関わらず・・・だ。
山田洋次といえば左翼だ。が、この時代劇三部作は思想性は全くなく、どちらかといえば保守との親和性が高いのではないだろうか。「下級武士=弱者という記号」は左翼。でも、この映画の記号になっていない部分、すなわち江戸時代の庶民の生活描写には、日本特有の魅力が存分に込められている気がする。もはや左翼革命など暗に否定されているではないか。