ミナリ
素晴らしい映画だった。

しかし、何が素晴らしかったのか?を説明することが難しい。

シン・エヴァのように高邁な思想を語っているようなものであれば、あれやこれやと、言葉による説明が可能だ。

本作のような、人間の記憶に基づいた「体験」についての表現は、シン・エヴァのような映画では不可能だ。

この映画は体験映画なんだ。何についての体験映画なのか?それは観る人によって異なる。というのも、本作は人々の記憶の奥底に埋もれている様々な琴線に触れるからだ。この映画は普通の生活が描かれるだけだ。映画の中の「普通」が、観客それぞれの「普通」に少しずつ重なるからだと思う。

人の記憶は言語化できない。日記に記したり、誰かに話したりして言語化できる記憶など、ごくごく僅かだ。言語化されていない記憶の蓄積が、実は膨大にある。体験映画は、そのような記憶を呼び覚ますことができる。

まぁそういうことだ。この映画の素晴らしさは言語化できない。

「理性で観る」ということはやめるべきだ。そうしなければ、本作の良さはわからないだろう。

P.S.

この映画は音が良い。夏の夜の虫の音が、ずっと鳴っている。

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僕の記憶に触れた部分は、「夏夜の虫の音」と「おばあちゃん」と「狼狽える両親」

実家が畑と雑木林の隣にあったから。また、実家では真夏の夜は、クーラーを入れずに窓を開けっ放しにしておく慣習があったので、夏の夜は虫の音がするんだよね。窓から入ってくる夜風を思い出す。

僕は両親が共に働いていて、よく祖父母の家に預けられた。今思うのは、当時の祖母(多分、今90歳後半ぐらいの年代の人)は戦前生まれで、思春期の頃に戦争を体験しているが故だと思うが、戦後生まれの人たちとは色々と違ってたんだよね。価値観とか思想信条とかその佇まいが違ってた。色々な作法をうるさく細かく言われたと思いきや、頑固なところもあり、ある面では大雑把で図太くワイルドだ。今の人が見たら、理解不能だと思うだろう。でも多分、今の人とは価値観が違うってことなんだよね。僕らが見えていなかった「価値」を重んじているんだと思う。僕から見ると祖母の振る舞いは矛盾しているのだが、祖母の中では一貫した「何か」があったんだろう。

僕は小学校低学年ぐらいまでは祖母と過ごした時間が長かった。だから、この映画の「おばあちゃん」と僕の祖母が重なった。

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